〔今週号の表紙〕
第361号 不死鳥
中嶋憲武
武蔵境駅前でヒノコさんと待ち合わせて、歩いてすぐの武蔵野プレイスですこし調べもの。ここは真っ白な建物で、窓のかたちが手塚治虫しているというか、昭和四十年代のサイケ調とでもいったほうがぴったりくるだろうか。そこだけ異質な佇まいなので、駅を出ればすぐにそれと知れる。
図書館に隣接しているデリカフェで軽い食事。
「そのプリン、ちょうだい」
「やだよう」 ぼくは袖でプリンを隠す仕種をする。
ヒノコさんは、ふふと笑って、
「ギャグはいいから」いったかと思うと、スプーンでかるがると掬った。
結局、ぼくたちは調べ物もそこそこにして食事してしまったのだったが、いいのかこんなことで。いつもいつも。ヒノコさんは食べ終えて、CASA BRUTUSを読んでいる。いいのかいいのか。ぼくは山頭火を読んでいる。
散歩でもというので、ぶらぶらするとこの辺はカントリーなのだな。果樹園などがあったりする。
すこし行くと、道路沿いに廃墟となったショッピングセンターがあった。
この建物の佇まいも相当に昭和感が漂っている。アーケードの入口の枠が角丸になっているのも、なにやら先ほどの武蔵野プレイスの窓を思わせる。
「ショッピングセンターフェニックス。いつか蘇るのかな」ぼくが呟く。
「母が歌ってる歌を思い出すよ。お母さんがさ、小学生のころだから昭和四十二年ころかな」
「どんな歌?」
「しああわせがあ、すむというう」 ヒノコさんは突如として歌い出した。
「にじいろのお、みずうっみい」
「虹色の湖か」
「ピンポン。近所の子とそのお母さん達とみんなで海へ行った時、電車のなかで近所の子たちとみんなで歌ってたんだって」
「それで」
「それだけ」
「ふうん。この建物のしわざだな」
「そうかも。この建物が思い出させたんだよ」
ぼくとヒノコさんはその廃墟をしばらく眺めていたが、自転車の小学生の女の子が通り過ぎたのを潮にまた歩き出した。
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