2014-04-20

わずかばかりの孤独を伴った一人の心地よさ 西村麒麟句集『鶉』の一句 近 恵

わずかばかりの孤独を伴った一人の心地よさ 
西村麒麟句集『鶉』の一句 

近 恵


玉子酒持つて廊下が細長し
  西村麒麟

西村麒麟の句集『鶉』は、どのページをめくっても麒麟君の顔が思い浮かんでしまう句がふわふわと並んでいる。どの句もそんなに難しい事を言ってなくて、どれも正直な感じがする。掲句もそんな中のひとつ。

玉子酒を持ってどこか部屋へ運ぼうと廊下に出たら、廊下が細長かったというだけのことなのだ。この玉子酒はきっと湯呑じゃなくマグカップに入っていて、それを片手で直に持っているに違いない。この玉子酒は誰が飲むのだろう。これから向かう部屋でだるそうにしている誰かに持ってゆくのか、それとも自分の部屋で一人ふーふーして飲むのか。私の思うところはなんとなく自分で飲むんじゃないかと思う。部屋へ行って、大好きな本とか読みながら、少しだるくて風邪気味の体を温めようと思っているのだ。そんな目論見で廊下に出たら、廊下が細長いということに気付いた。その細長さはどちらかというと居心地のよい細長さのように思える。長すぎず短かすぎず、ちょど歩きたいくらいの長さで、ぶつからず広過ぎもせず孤独になり切らない程度の細さ。そうやって自分一人の大事な時間を玉子酒で心地よくして過ごそうとしているんじゃないかなと思うのだ。

それは、誰かといることの心地よさとはまた違う、わずかばかりの孤独を伴った一人の心地よさも大事にしたいと思っているかのようだ。そして、その心地よさを望んでいるのは他ならない私自身なのではないかな、とも気付いたりして。

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