2014-11-02

落選展2014_13 封境 杉原祐之 _テキスト

13 封境 杉原祐之

豆乳の鍋に旧正祝ぎにけり
鬼退り出し一斉に豆を撒く
オープンのゴルフコースに霾れる
赤樫の杖で野焼を差配せる
ぬひぐるみ抱えしままに野に遊ぶ
息止るほどに吹雪ける桜かな
花吹雪光となりてゆきにけり
摩天楼まで届かざる花吹雪
花仰ぐ多種も多様な人種ゐて
ドーナッツ現象の町花曇
聖像の天使の羽根に落花かな
メーデーの風船の割れ易きこと
春昼の船のをらざる船溜り
緑陰の下にインドの将棋差す
ナイターのドームの屋根の開きけり
地平線まで麦秋の丘うねる
星条旗の下に広がる麦の秋
北国の夏至の夕べのバーベキュー
イタリアの移民の家の薔薇盛ん
強弱の無き冷房のバス走る
玉の汗拭かず嘆きの壁に手を
ターバンと付髭映す泉かな
引越の果て風鈴の鳴りにけり
播州の室津の浜の蝦蛄を漁る
プレハブの事務所に篭り玉の汗
子を風呂に入れたる後の夕涼み
広島の原爆の日の砂河原
炎昼の錆び付きゐたる滑り台
ぬばたまの河原に立てば夜の秋
すりと目のあひし気もして踊の輪
はち切れむばかりの梨を妻が切る
色付きしままに水漬ける早稲田かな
潮の香を翅にまとへる赤蜻蛉
鬼ヶ島の案内板の秋蚊かな
重陽の透き通りたる天つ空
港湾の旗のぼろぼろ野分風
射爆場管理用地と冷やかに
マンションの路地に秋刀魚の煙充つ
終電車回送さるる後の月
逆光に町のありたる刈田道
短日の改札口に人溢れ
短日の瓦礫の影の長さかな
竹藪に手入れ入らず烏瓜
ポストへと落葉の嵩を踏みながら
数へつつ遊んでをれる柚子湯かな
プレハブの目印をつけ冬の芝
売切の厚焼玉子年の市
大寒の訃報相次ぐ日なりけり
洗濯のシーツに跳ぬる霰かな
国境の大きな滝の凍てにけり

2 comments:

四羽 さんのコメント...

炎昼の錆び付きゐたる滑り台
公園の遊具は昨今放置され気味である。真夏の昼ともなればなおさら、濃い影の中、すでに錆びついている滑り台はぽつねんと佇んでいるだろう。時代 は動く。

はち切れむばかりの梨を妻が切る
堅い果肉に豊かな果汁が詰まっているのが梨という果実。包丁を入れる時に感じる「はち切れんばかり」感は幸福である。たまには「妻に」切って差し 上げたい。

短日の瓦礫の影の長さかな
短日と長い影の映像的な対比。瓦礫、影、長さという語の社会的暗示。視覚と意味性がバランスよく配置された。

身辺を読みつつ、社会や世界との接合点を探る中、とまどいのような心境も感じさせる。

杉原祐之 さんのコメント...

四羽さま
鑑賞を頂きまして有難うございます。鑑賞から解釈に入って頂き嬉しいです。