13 封境 杉原祐之
豆乳の鍋に旧正祝ぎにけり
鬼退り出し一斉に豆を撒く
オープンのゴルフコースに霾れる
赤樫の杖で野焼を差配せる
ぬひぐるみ抱えしままに野に遊ぶ
息止るほどに吹雪ける桜かな
花吹雪光となりてゆきにけり
摩天楼まで届かざる花吹雪
花仰ぐ多種も多様な人種ゐて
ドーナッツ現象の町花曇
聖像の天使の羽根に落花かな
メーデーの風船の割れ易きこと
春昼の船のをらざる船溜り
緑陰の下にインドの将棋差す
ナイターのドームの屋根の開きけり
地平線まで麦秋の丘うねる
星条旗の下に広がる麦の秋
北国の夏至の夕べのバーベキュー
イタリアの移民の家の薔薇盛ん
強弱の無き冷房のバス走る
玉の汗拭かず嘆きの壁に手を
ターバンと付髭映す泉かな
引越の果て風鈴の鳴りにけり
播州の室津の浜の蝦蛄を漁る
プレハブの事務所に篭り玉の汗
子を風呂に入れたる後の夕涼み
広島の原爆の日の砂河原
炎昼の錆び付きゐたる滑り台
ぬばたまの河原に立てば夜の秋
すりと目のあひし気もして踊の輪
はち切れむばかりの梨を妻が切る
色付きしままに水漬ける早稲田かな
潮の香を翅にまとへる赤蜻蛉
鬼ヶ島の案内板の秋蚊かな
重陽の透き通りたる天つ空
港湾の旗のぼろぼろ野分風
射爆場管理用地と冷やかに
マンションの路地に秋刀魚の煙充つ
終電車回送さるる後の月
逆光に町のありたる刈田道
短日の改札口に人溢れ
短日の瓦礫の影の長さかな
竹藪に手入れ入らず烏瓜
ポストへと落葉の嵩を踏みながら
数へつつ遊んでをれる柚子湯かな
プレハブの目印をつけ冬の芝
売切の厚焼玉子年の市
大寒の訃報相次ぐ日なりけり
洗濯のシーツに跳ぬる霰かな
国境の大きな滝の凍てにけり
2014-11-02
落選展2014_13 封境 杉原祐之 _テキスト
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2 comments:
炎昼の錆び付きゐたる滑り台
公園の遊具は昨今放置され気味である。真夏の昼ともなればなおさら、濃い影の中、すでに錆びついている滑り台はぽつねんと佇んでいるだろう。時代 は動く。
はち切れむばかりの梨を妻が切る
堅い果肉に豊かな果汁が詰まっているのが梨という果実。包丁を入れる時に感じる「はち切れんばかり」感は幸福である。たまには「妻に」切って差し 上げたい。
短日の瓦礫の影の長さかな
短日と長い影の映像的な対比。瓦礫、影、長さという語の社会的暗示。視覚と意味性がバランスよく配置された。
身辺を読みつつ、社会や世界との接合点を探る中、とまどいのような心境も感じさせる。
四羽さま
鑑賞を頂きまして有難うございます。鑑賞から解釈に入って頂き嬉しいです。
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