24 草の矢 岬光世
宛名なき初荷のとどく灯なり
聞きとれぬそれが囁き水仙花
奪はれし音の容に滝凍つる
掘りかへす土の乾ける日永かな
春蘭の涙ひとすぢ読めるなら
遠雪崩眠りにつけぬ闇幾重
早梅や留まる舟に窓を拭き
擡げられ芥もくたや霜柱
猫車押してゆく坂百千鳥
接木せし手のぬくもりを持ち帰る
失投をぢつと見てゐる躑躅かな
初夏の雨にくぐりし竹箒
雑草のひようと伸びたる風薫る
夕されば帯締めなほす門柳
みづすまし一つ跳ぶたび向きを変へ
雷鳥の居間へそろりと歩み入る
草の穂のほのかに熟れてゐたるかな
葛の花幼なじみも年の頃
出航の合図をとほくをみなへし
波音の絶ゆるともなく曼珠沙華
雪渓がハートを成せる処にて
手をついて土のやはらか流灯会
大峰に眠る芒や昼の月
サンダルの斜めに減りし夜の秋
飛石にすがる影あり苔清水
藤の実の少なき園を通りけり
針仕事してをるらしや秋簾
星になる前の草矢を放ちけり
建て替ふることなく過ぎぬ秋桜
念力のやうに鶏頭残りたる
草いきれ一番星を傍らに
いちまいの日焼の背ナを海へ向け
お太鼓に川風とほす夏衣
塵取を緑にするや草を刈り
注ぎ口風雨に曲がり山清水
花野へと入る何人といふを捨て
鳴くこゑのひとつおほきく秋の蟬
扉なく向き合ふ壁や冬紅葉
真影を離さぬままに霧氷なる
家具ひとつ運び出したり雪催
初冬の息に磨かれハーモニカ
むつかしき門をくぐらず枯芙蓉
をちこちに実の熟れいそぐ秋暑かな
人伝てに先代の所作夏の帯
幕間に箸を交ふる木の芽和
人寄する庇の奥の目高かな
小春日といふ一曲を録せずに
ゆつくりと櫓に戻す手や冬旱
継ぐあてのなき宿にして零余子飯
片側の頰の明るき冬の晴
2014-11-02
落選展2014_24 草の矢 岬光世 _テキスト
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2 comments:
藤の実の少なき園を通りけり
扉なく向き合ふ壁や冬紅葉
家具ひとつ運び出したり雪催
おだやかな詠みぶりが、常識の範囲に収まってしまいがちな中、いくつか、はっとさせられる句がありました。
掘りかへす土の乾ける日永かな
人が掘り返した土、虫が動物が掘り返した土、乾いた大小の土団子がふと目にとまる。
念力のやうに鶏頭残りたる
密生していた鶏頭もほとんどは枯れてしまったが、意地のように残っている数本が赤く生命力を主張している。
片側の頰の明るき冬の晴
冬の低い陽光を受けて、片側の頬のみ照らされる。しかしもう一方は影として残り、晴れの日にも含みが残る。
全体に落ち着いた雰囲気で、自然と生活の調和を感じさせる。
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