【八田木枯の一句】
引鶴のばさつく音の夜陰かな
西村麒麟
引鶴のばさつく音の夜陰かな 八田木枯
『鏡騒』(2010年)より。
鶴や鏡は誰もが知っている木枯好みで、美しいものや失われていくものを特に好んだ。
「引鶴」は全句集中8句、「鶴渡る」は5句、「鶴」は28句、気持ちの良いぐらいの鶴好きである。
この句は、鴨では寂しさが足りず、雁では美しさが足りない。光を帯びたような鶴が夜を裂くように帰って行くから美しいのだ。ばさつく音は耳ではなく、心を騒がしているのだろう。
さて、この句の少し別の面白さは、全句集中の28句にある、いづれかの鶴が帰って行くのではないかと想像することだ。
鶴の手をひいてよこぎる奥座敷 『夜さり』
家裏で鶴手なづけし少年よ 『夜さり』
逢坂や微熱の鶴は夜遊びに 『鏡騒』
作者にとってはどの鶴もたまらなく愛しいはずだ。
三月は木枯さんの亡くなった月であり今も憂鬱になる。西行は花、木枯は鶴帰る、哀しいけれど見事だ。
2015-03-29
【八田木枯の一句】引鶴のばさつく音の夜陰かな 西村麒麟
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