2015-09-13

【週俳8月の俳句を読む】承知の上で 羽田野令

【週俳8月の俳句を読む】
承知の上で

羽田野令



夜の枇杷つまむ会へなくてつらい   宮﨑玲奈

会いたいのに会えない夜を一人で過ごしている私。そして私の前にある枇杷。手持ち無沙汰で枇杷でもつまんでみる。枇杷のあたたかな色とあまり大きくない大きさが程よい。「つまむ」は、他のりんごのような果物だと食べるという意味になってしまうだろう。枇杷だから細くなってる方の先をちょっと指先で挟む様にしている様子がわかる。人を思って一人で居る夜の絵として悪くはないのではないかと思う。「つらい」という直裁な言葉がいいのかどうかだが、俳句でこのような語がでてくるとよく言われることだが、「つらい」を使わずに書くということを作者も承知の上でやはりこの語を選んでいるのだと思う。どうしてもこう書きたかったのだろう。

夕菅や矢を射るごとく名を呼んで    青本瑞季

清々しい。すっと線が伸びて対象とする一点にだけ届く矢。矢を射ると喩えられて名を呼ぶことがとても美しいことのように感じられる。普通に伝えることがあって名前を呼ぶのとは違って、何か特別な関係や気持ちで名を呼んでいるのだろう。黄色いほっそりとした夕菅がよく合う。

みづからに百日紅の日々を課す    藤井あかり

百日紅の日々とは何か。百日紅は百日の長きにわたって咲くからその名が付けられたというが、そういう長さの日々ということではない様に思う。○○の日々と言われると「酒とバラの日々」を思うが、「酒とバラ」という言葉からは、耽美的とか爛熟や退廃とか耽溺というようなものを思うのは映画があるからであるが、百日紅だとどうなるか。紅の花が枝の先にびっしり咲きそろっている景、夏空を背景にした鮮やかな色で咲き誇る、花を毎日足元に散らしながら太陽に向かっている、という様な強さのあることなのか。何なのかよくわからない。
自分に何かを課すというのは確固としたことなのに、百日紅の日々というわけの解らなさを持って来ているところで力が脱けてしまう。このへなっと躱されているところが面白さなのか。

葡萄樹をゆけば船室のゆらめき    大塚凱

葡萄の木々の下は完全には閉じられていないけれど、棚のところで空と隔てられた別な空間を作っている。葉が外の明るさと温度を遮っているからちょっと違った部屋の様である。繁った葉を透かして入ってくる光、風にゆらめく光。船室というひとつの非日常の空間の趣は十分にある。地の恵みをもたらす果樹から海をゆく船の中への想像が新鮮である。



「薬」二十句、水の注がれた器からとめどなく水が溢れて零れている、そういう印象である。自由律でいうところの長律のようである。溢れるものを受け入れるには定型の器では適わなかったのだろうと考える。

悪口を言ふために呑む、鈴虫の相槌が上手い   中山奈々

5 ・7(5・2)、 5・8(5・3)と長律としてはリズムがよい。

読点で切られている二つの部分の出だしが「悪口を」と「鈴虫の」という、共にO音で終る五音であることが対句のような仕上がりをもたらしている。

「悪口を言ふために」は殊更自分を偽悪的に演出している感があり、そんなにまで自分を悪く言わなくてもいいよと読者は思ってしまう。小さき者の相槌というのも悲しげな道具立てだが、いたいけな鈴虫と通い合っているような童話的な情趣もある。

秋のてふてふ考へろみろブルース・リー   中山奈々

寺山修司がブルース・リーの言葉を書いていた。「頭で考えるな。肌で掴め」と。映画「燃えよドラゴン」の冒頭部分だという。昔随分流行った映画だが見てないのでyou tubeでその部分を見てみた。Don't think. Feel ! とブルース・リーが少年に言っている。「考へろみろ」はその逆だ。逆なのだがこの句を何度も読んでいると、だんだんブルース・リーの言った事とここでの「考へろみろ」は同じ事のように思えてくる。

秋の蝶という、春の明るさとは少し違う蝶を配しブルース・リーに呼びかけているととるのと、蝶に考えろと言っていてそこにブルース・リーを持って来ているとするのとの二通りに読めると思うが、どちらも自分に言っているようである。「秋のてふてふ」が自分と重なるとすると、「てふてふ」という儚げな平仮名表記になっているのはそのゆえか。



第432号 2015年8月2
宮﨑玲奈 からころ水 10句 ≫読む
第433号 2015年8月9
柴田麻美子 雌である 10句 ≫読む
第434号 2015年8月16
青本瑞季 光足りず 10句 ≫読む
第435号 2015年8月23
藤井あかり 黙秘 10句 ≫読む
大塚凱 ラジオと海流 10句 ≫読む
第436号 2015年8月30
江渡華子 目 10句 ≫読む
中山奈々 薬 20句 ≫読む
中谷理紗子 鼓舞するための 10句 ≫読む

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