2015-11-01

2015角川俳句賞落選展 8 岡田幸彦「虚も実も」テキスト

8. 岡田幸彦 「虚も実も」

母だけの現実にひとり青き踏む
吾の手にすがれる母や野に遊ぶ
極楽の入り口のあり春炬燵
繰り言に繰り言かへす春炬燵
英霊の集へる宴や花明り
祀られぬ霊になりたし花の塵
御仏に口紅をひく朧かな
虚も実も朧や母の軌跡なる
初燕ぐんと音して子は伸びる
できること指折る老母燕来る
龍天に春雨は地に音もなく
黒鯉に濃淡のあり春の雨
亀鳴きて夕鶴のごと妻来る
亀鳴かぬのに驚きぬあゝ悔し
吾母を食ふてかなしき苺かな
子なき姉苺食ひをり母の日に
幽霊がゐる紫陽花の雨に濡れ
デジャヴ否吾があぢさゐだつたのだ
記憶食ふ獏が昼寝の母の許
異界より呼ぶ暁のほとゝぎす
蝉殻の百年見つけられずゐる
七年の物語七日目の蝉
地下壕で絵描きする子ら夏の雲
落書の子を叱らずに雷を聞く
日の丸の撃ちし屍異国の蠅
玩具の銃も使途知る蠅が舐める
大き桃流れて来り拾はむか
孫見たしと今さら母よ桃苦し
子どもらの語彙も豊かに星祭
七夕や単語で話す子どもたち
老父母が淡くなりゆく花野かな
老父はや帰り支度の秋の旅
月光や美しくする呪詛もあり
名前とは愛の呪詛とや望の月
殺生をせぬ蟷螂の糧の露
眼に露が光る蟷螂虫を食む
原発が一家に一基水の秋
原発を核といはずに火の恋し
聖夜なり記憶確かな以前の母
厨には嫁げる姉が立つ聖夜
凍て蝶の住処となりて廃炉かな
原子炉が目覚めし町や冬の蝶
寒卵夢物語を生きてゐる
魂はことばを持たず寒卵
整然と響く靴音日記買ふ
初日記国あやふしと書き無力
初夢に愛国を説く吾憎し
書初や真白な子をあづかりぬ
戦争の歴史なき星冬銀河
武器捨てよ聴け寒昴視よ静寂





■岡田幸彦 おかだ・ゆきひこ
1965年生まれ 所属結社なし 和歌山県在住。

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