28. 小池康生 「一睡」
閉館のキネマの隣布団干す
手袋もをのこも行方不明なり
近づけば点る仕掛けや年暮るる
海に浮くごとくに聴いて除夜の鐘
男湯と女湯代はる去年今年
外出はせぬがよそゆき大旦
残り福むかし不良で貧相で
嗄れ声冬菜いよいよ旨さうに
ゆきぐものよこにあをぞら法隆寺
地の雪と五重塔に載る雪と
マフラーに普段着のありそればかり
日向ぼこばかりしてゐること苦手
描きかけの消防車なり出動す
立春のトールサイズといふカップ
新暦の方の二月を愛しをり
逆光の一山は紺春の雲
お水取り巨きな夜を燃やしけり
一本も観ずに延滞春の雨
春炬燵下位の力士にいや詳し
年寄りに年寄りの役百千鳥
啓蟄の秘仏の腹のレントゲン
早喰ひがもつとも旨し春の昼
青空を眺めに出掛け落第す
石鹸玉すべて己が壊すなり
鳥交る片方だけが無表情
苗札のなきものばかり咲きにけり
あかときはけふもあたらし蜆舟
けもの道記せる地図の朧かな
谷底に墓と笑ひや朝桜
一睡につづく一睡ちるさくら
春寒し伊勢はいづくも神の傍
花水木住めば覚える人の顔
降り残す雨を今ごろ椎若葉
溢るるは漲るに似て菖蒲風呂
たけのこの白きところに値の書かれ
台詞なき場面のつづく涼しさよ
眼帯と香水まとふ少女かな
噴水のわづかに顔にかかる距離
現れて消えてあらはれ死にゆく蚊
我ながら大きな文字や夏見舞
とめどなく水織り込んでゆく瀑布
黒南風や五人で守る草野球
バナナ剥く北に東に南西に
生身魂あの世の下見済んだらし
二百十日木偶全身を震はせて
釣り人を離れぬ鷺や秋の昼
松茸を買つて洋服あきらめる
澄みてなほ水は面をうしなはず
唐辛子売るや辛さを詫びながら
行く秋に会釈御手洗に柄杓
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■小池康生 こいけ・やすお
銀化同人。句集『旧の渚』。
2015-11-01
2015角川俳句賞落選展 28.小池康生「一睡」テキスト
Posted by wh at 0:26
Labels: 2015角川俳句賞落選展, 小池康生, 落選展
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