作品20句
踏襲
依光陽子
踏襲 依光陽子
むかうにも我ゐて春の泥を踏む
これは詩ではなくてブルーズ夏の薊
鳥に応ふる草笛や手にはなし
らんちうやとてもかなしい人であつて
六月やまた手のひらに戻る桃
蟬時雨白き樹液が焼けてゐる
葛咲くや背を通りたる川昏く
菩提子を木喰仏と見る揺れる
歩くこと蝶にもありて秋日和
その模様負うて胡蝶といふべしや
桃と思うて握つてをれば李なり
松手入松に見られてゐながらに
何年も何人も来て松手入
その奥の木瓜は実となり詫びてをり
鉦叩鳴らずの鉦もそのあたり
蛇瓜は丹で緑青の雨を曳く
花つけてゐる数珠玉は唄ひけり
臘月の日にあらはれし蚊それから
年詰まる桜の太きこの町に
木の葉いま水の音して燃えはじむ
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