2017-12-17

【週俳11月の俳句を読む】さあらぬ 藤井あかり

【週俳11月の俳句を読む】
さあらぬ

藤井あかり


始まりはこんな呼びかけから。

栗の秋八王子から出て来いよ  西村麒麟

「出て来いよ」の気軽さと強引さに、つい出て行ってしまう。
行く先に広がるのは、栗の木々のゆたかさ。

林檎の実すれすれを行くバスに乗り  西村麒麟

バスの窓から手を伸ばせば捥げそうな林檎。
心はもう林檎を齧りはじめている。

虫籠に住みて全く鳴かぬもの  西村麒麟

鳴くものよりも、鳴かないものの方に心が寄ってしまう。
耳奥には沈黙が響いている。

蟷螂は古き書物の如く枯れ  西村麒麟

長い歳月のなか褪せていったかのような蟷螂の枯れ色。
胸中に捲ろうとするとき、枯れの深さは知の深さ。

焚火して浮かび来るもの沈むもの  西村麒麟

火や風の勢いにより、燃えながらふっと浮かんだり沈んだりするもの。
そんな景を超え、胸に浮かんでは沈む何かにもつながってゆく。


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