2018-02-04

【句集を読む】趣向と無造作 黄土眠兎『御意』の二句 西原天気

【句集を読む】
趣向と無造作
黄土眠兎御意』の二句

西原天気


出展者D冬空に本売りぬ  黄土眠兎

青空市、といっても、古書店が集まるたぐいではなく、市民際かなにかのイベント。業者なら「出展者D」といった呼び方はしないと思うので(管理上するかもしれないが、書店名がまずある)。

アルファベット「D」を含む導入部は、軽いフックにもなり(なにしろアルファベットなのだから)、同時に、上記の事情も簡潔に示す。

「冬空に」の「に」は、《冬空(の下)に》といったふうな状況説明と同時に、《冬空に(向かって)》とも。

後者が読者に響くとき、本がすべて上を向いている景も広がり、そこにいる人たちの開放感もひとしお。

なにげない句に見えて、部分部分がよく設えられています。

ただ、そんな句とは別に、

春の人箱階段を上りけり  同

が、なぜか深く心にしみます。

彩は見て取れない。

「春の人」といった、ある種無理筋な言い切り、ぶっきらぼうな把握は、この句において、不思議な味を醸し出す。ここを「春なれや」等、よく使われる収まりのいい季語に置き換えてみれば、「春の人」の不自然さの効果がよくわかります。


さて、この小文のタイトルは「趣向と無造作」。ここに挙げた二句のどちらが趣向でどちらが無造作なのか。書いている自分も判然としません。どちらがどちらとも言えない。このへんがじつに、俳句というものの面白さなのだと思うのですよね。


黄土眠兎句集『御意』(2018年1月/邑書林)

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