【句集を読む】
趣向と無造作
黄土眠兎『御意』の二句
西原天気
出展者D冬空に本売りぬ 黄土眠兎
青空市、といっても、古書店が集まるたぐいではなく、市民際かなにかのイベント。業者なら「出展者D」といった呼び方はしないと思うので(管理上するかもしれないが、書店名がまずある)。
アルファベット「D」を含む導入部は、軽いフックにもなり(なにしろアルファベットなのだから)、同時に、上記の事情も簡潔に示す。
「冬空に」の「に」は、《冬空(の下)に》といったふうな状況説明と同時に、《冬空に(向かって)》とも。
後者が読者に響くとき、本がすべて上を向いている景も広がり、そこにいる人たちの開放感もひとしお。
なにげない句に見えて、部分部分がよく設えられています。
ただ、そんな句とは別に、
春の人箱階段を上りけり 同
が、なぜか深く心にしみます。
彩は見て取れない。
「春の人」といった、ある種無理筋な言い切り、ぶっきらぼうな把握は、この句において、不思議な味を醸し出す。ここを「春なれや」等、よく使われる収まりのいい季語に置き換えてみれば、「春の人」の不自然さの効果がよくわかります。
さて、この小文のタイトルは「趣向と無造作」。ここに挙げた二句のどちらが趣向でどちらが無造作なのか。書いている自分も判然としません。どちらがどちらとも言えない。このへんがじつに、俳句というものの面白さなのだと思うのですよね。
黄土眠兎句集『御意』(2018年1月/邑書林)
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