【句集を読む】
蝶にふれ
木本隆行句集『鶏冠』の一句
西原天気
蝶をもつときは、たしか翅の根っこと胸を同時に、力を入れすぎぬように、かといって羽ばたかない程度にしっかりと、細心の注意を払った(と記憶する)。蝶をつまむ行為は、人間の指先が最初に強いられる精密で微妙な動きかもしれない。
秋蝶の翅に耳たぶほどの冷え 木本隆行
蝶の翅にふれて、それを別のものに譬える句に、《つまみたる夏蝶トランプの厚さ 髙柳克弘『未踏』2009年》があるが、掲句は温度。
蝶も耳たぶも生きているととのことからすれば、なまめかしい見立てでもある(トランプの理知とはやや対照的)。
そういえば、耳たぶほどの冷たさであったか、と、はっきり思い出せたわけではないが、きっとそうなのだと、〈二次的に〉思い出せた感覚がある。
はるかな距離感をもって(というのは、もっぱら、長らく蝶など触っていないというこちらの事情)、繊細を伝えてくる。
木本隆行句集『鶏冠』(2018年3月/ふらんす堂)より。
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