2020-06-07

中嶋憲武✕西原天気の音楽千夜一夜 プラスチックス「TOP SECRET MAN」

中嶋憲武✕西原天気の音楽千夜一夜
プラスチックス「TOP SECRET MAN」


憲武●日本の昔のバンドシリーズ第4弾ということで、プラスチックスで"TOP SECRET MAN"です。


憲武●この人たち、音楽一辺倒ではなくて、本業を持ってたんです。それぞれイラストレイター、スタイリスト、グラフィックデザイナーなどですね。ギョーカイの人たちなんです。

天気●いわゆるクリエイティヴな人々ですね。

憲武●でもラフ・トレードからデビューして、海外で通用する日本のバンドだったんですね。サディスティック・ミカ・バンド、イエロー・マジック・オーケストラと比肩してます。

天気●調べてみると、79年のシングルデビューがラフ・トレードですね。78年のレーベル設立から間もない頃だ。当時、英国のニューウェイヴ系のバンドがたくさんいて、聴きましたねえ。キャバレー・ヴォルテールとかヤング・マーブル・ジャイアンツとかペル・ウブとかザ・レインコーツとか。このプラスチックスみたいなテクノは、このレーベルのイメージじゃなかった。

憲武●その辺がよくわからないんですけどね。確かに毛色が違います。1980年当時の日本は、海外の人たちから「ウサギ小屋に住んでるサル」などとバカにされまくってたんですね。3者に共通してるのは、その辺を逆手に取って成功したんではないかと。

天気●一種オリエンタリズムでしょうね。

憲武●デビュー当時はリズムボックスの音が軽いし、声もヘンなので、あまりピンと来なかったんです。解散後、立花ハジメがどんどんソロアルバムを出すようになったり、チカと中西俊夫が「メロン」というバンドを結成したりしてから、プラスチックスのファーストを再度聴いてみたら、なんつーか心地よかったんですね。あのリズムボックスが。

天気●テクノ? でいいのかな? あまり聴いてなかったです。このバンドも名前だけなんとなく聞いたことがあるという程度で、1曲通して聴くのは初めてだと思います。

憲武●そうなんですね。中西俊夫の声もデビッド・バーンのような浮遊性があって聴いてると、なんかいいじゃんみたいになってきまして。

天気●うん、ちょっと似てる。でも、違う。デビッド・バーンは美術学校出身で、クリエイティヴな香りがする人ですが、なんか違う。トーキング・ヘッズ/デビッド・バーンには〈ロック〉を感じるけど、こちらには感じない。人種主義ではないと思うんですが……。モード的すぎるのかなあ。

憲武●なんでしょう。グルーブかな。この曲の収録されてる「ウェルカム・プラスチックス」という日本でのデビューアルバムなんですけど、「ウェルカム・プラスチックス」って曲が収録されてます。これね、作詞作曲が安井かずみと井上忠夫なんです。

天気●へえ、ブルコメの井上忠夫?

憲武●はい。今は井上大輔ですけどね。ジャッキー吉川とブルーコメッツが、ビートルズ来日の時に前座を務めたんですが、そこで歌ってたのが「ウェルカム・ビートルズ」って曲で、プラスチックスは「ビートルズ」のところを「プラスチックス」に、「4人」のところを「5人」に変えてうたってるだけなんです。

天気●ああ、だから井上忠夫なんですね。

憲武●ビートルズとプラスチックス。一見、なんの繋がりもないかと思うんですけど、実は繋がっていたんですね。

天気●ロックバンドならすべてなんらかにビートルズとつながってますよ。

憲武●アルバムの中の"CAN I HELP ME"って曲ではHELPとかPLEASEとかbeep beep beep beep,yeahとか、うわーっていうようなキーワードが出てきて。

天気●オマージュ。

憲武●まあ、なんというかキュートなバンドですね。立花ハジメのギターの音色がカラフルだし。

天気●キュートっちゃあキュートかもしれませんが、ちょっといらっとさせるかんじです。音も外観も演出も。好みの問題だけど。

憲武●それがだんだん慣れてくるというか、癖になったのが私な訳だ。訳です。ま、好みの問題だと思いますが。メンバーは現在ほとんど鬼籍に入られてしまいましたけど、タワレコにはコーナーがあって、アルバムは売れ続けているようです。嬉しい限りです。 


(最終回まで、あと853夜)
(次回は西原天気の推薦曲)

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