2007-07-22

金玉の寂しさ 或いは子規居士の睾丸供養 ロビン・ギル

金玉の寂しさ
B alls G old & B lue

或いは子規居士の睾丸供養


by
神学者でないロビン・ギル robin d. gill


すでに拙著四冊にわたり、俳句七千句を英訳した者ながら、いまさらOctopussy, Dry Kidney & Blue Spots という川柳、しかも柄井川柳本人が「恋句」と、現代人が破礼句とよぶ類ばかりどっそりと詰めたる本を出版せんとすることが、少々恥ずかしいと云ひ、情けないと云ひ、たしかに俳句一本筋(その筋がばらばらではあるが)の心に変りがないが、海鼠の句千句も英訳したRise, Ye Sea Slugs! ( 一茶句「うけ海鼠」に因む) が珍物ですら、大手新聞などに見逃されてしまったから、今度、よっぽどヤバイと思われる本でも出して、それでもそれでもとポップの世界に挑戦してみる。蛙の面に終わるかもしれないが、ともかく、はやくやってみて、俳句へ戻るのが企画。

さて、その「蛸壺」やら「腎虚」やら「道鏡と女帝」やら猥褻っぽい題の数々の仲間へ、どうやら「金玉」という大切な無用ものに一章でも与えることになりました?

その理由の一つが、十年前に読んだ子規の全集に見つけては掘り出し、それから一度失くしたが又みつけた子規大居の玉の句を、はやく世に紹介したいと思ったからです。かなりヒョウキンたる短章には、子規の睾丸がやや重苦しいと感じたが、そういうバランスが読書の味を濃くにすると自分に言い聞かし、結局ちょん切ることなく生かした。ただし、その経歴は『週刊俳句』の読者の皆さんにとってどうでもいいでしょう。

大事なのは、今こそ子規の睾丸が旬です。グロバル・ウオーミング時代の蒸し暑い夏にもって来い句だ。

  睾丸の邪魔になったる涼み哉  子規 拾遺 明治二十八書簡374

はい。涼みという、れきとした季語です。アイデア上では、川柳にある女の子の夏の不自由(男ほどは裸になれない)への反句と、一茶の手も足もなくしたい、暑さへの嘆句を思い出すが、子規がそれを読んだかどうか知りません。子規の『分類俳句全集』を読んだかぎり、氏は、われわれが『一茶全集』で読める一茶句の多くに出会わなかった。

  睾丸をのせて重たき団扇哉  同

我もACなしの夏を何十年も体験し、一度二度ちょうど同じことをした思い出が、かすかにある。ひとりのときか、より幸せなときか、それさえはっきりとしないが、したはした。病身なる子規が、弱って夏ばって、しかも身をうまく曲げられなかったかもしれない。すると柄の端にちかいところで握って、 leverage つまり要の配置が持ち上がるものから遠くて、金が鉛玉と化けてしまったでしょう。

冗談をいうが、真面目に貴方に訊きたい。この句は、どうおもう?

私に言わせれば、鶏頭の十四、五本もありぬべき句、同様、問題になってもいい、傑作だ。ぶらりとしなければ、又その辺に空気を送ることがなければ、その行動あるいはその動機も生まれないから、季節もばっちりぞ。「暑さ」という語のない暑さの内の句です。

  睾丸の汗かいて居るあはれ也  子規 拾遺

哀れはあわれし、その感情もまことと思いますが、あのきもちを短歌に任せたい。俳句のあわれを他所に感じたい。名句一句言及させていただく。

  秋のくれ祖父のふぐり見てのみぞ  其角

しかし、子規が、たとえ自分の悲しさを、その金玉に移しても、それを第三者として感じたところに、達観すら感じる。

同時に、子規がたとえ病気であっても老人でない。老人の睾丸でなければ、どうしても七面鳥の喉なんだかとしか感じない、感じがでない。この外人の判断が厳しすぎるかもしれない。ご異見は?

これはオンライン雑誌で、ご意見は、いつでも投稿できるから、真面目に訊いております。

  夏痩やきん丸許り平気也 子規 拾遺

何年前の子規の句の中で印象ぶかい人間像あります。夏痩せどころか、元気に太る小傾城が憎いという句だ。こちらも夏痩せタイプで、子規の羨ましさ、よくわかりました。そしてなん何経てば 、自分の睾丸の馬鹿元気さに気付いた。それがそれでオメデタイが、

  きんたまのころげて出たる紙帳哉  拾遺

のを読めば、冬の金玉へ引っ越した疝気虫が夏でも屋敷を打ちたてたかと不思議に思う。いや、考えすぎ、浴衣で寝ていて、股を風通しよくする姿を少々大げさに述べただけか?

  睾丸に須磨のすず風吹送れ  拾遺

「吹き送れ」という組み合わせの動詞には英語はかないません。 しかし須磨は。蕪村などの寝小便の乾し布団、家の中の昼寝の姿。涼風は海のものでしょうが、ほのぼのと見える金玉も似合う。明石に出た一茶の眠っている海鼠と一緒に置きましょうか。その年、子規が「乞食の睾丸をひやす清水哉」 (ホトトギスM28 )とか、「またくらに白雲起る清水哉」(上記の三つ後です )  も作ったが、自画像に比べて、つまらない句では、との印象です。

  睾丸の垢取る冬の日向哉  明治29

夏でないが、これもごく自然で、しかもぬくもりある、心地いい、品もある句。それでも、岩波の虚子選に、やはりない。亡き友の金玉を考えたくもなかったか?

  永き日や頻りに股のいらかゆき 30-9-29  病状手記

正直いう。蒸し暑くなったら、男のかなりの割りまでも陰菌にかかる。ズボン履いてジャングルを走りまわれば、99%までかかるという。昔の日本はどうだったでしょう?英語の ring-worm みたいな風色ある名前に恵まれず、冬の疝気虫がいかにも俳諧にもって囃されても、より多くの人口を苦しませた、この皮膚病だけは俳句に出てこないのが変と思いませんか。

同じ年に子規がつまらない二句を作った

  寂や疝やまた下萌の小座頭や

  売れずして玉に毛生る暖かさ

次年の「狼や睾丸凍る旅の人」(明治 31 拾)は、狼の糞をみて鳥肌になった一茶の句とくらべて又つまらない。二年後もう少しましなる「秋の蚊や玉の御膚刺しに来る」(明治33 ). 玉の「御」皮膚になにかあるが、句を救うには十分ではない。そしてお亡くなりになった三十五年。男の子ほしかった友人に次の狂句を下したという:

  桃太郎は桃金太郎は何からぞ

それはそうらしい。かなり最近、どこかで読んだ。老弱な男には女の子が多いみたい。俳句ではなく狂句であろうが、子規は最後までもユーモアーを守って、このようなヒョウキンたるものでも作られたとおもうと。。。

   墓の木ハ茂り又玉や腐ルラン 明治35

蘭の球でなければ、金玉中心の死後のイメージ。かの糸瓜三句とあわせて読めば、いかがでしょうか? ところで、医者のラテン用語では、金玉は orchis 、つまり蘭になるし、そこの病も皆ランランだ。



オマケ

皆さん、夏の夜這いに気をつきましょう!

  夜ばい仰天睾丸へ猫がじゃれ  葉別七




2 comments:

Unknown さんのコメント...

ロビン、ギルさん
初めまして、金玉の句とても面白く拝見しました。
一茶の句も出てきて、興味がわきました。
英語の俳句7000もお持ちとのこと、大変なものですね。
私とコンビを組んでいるDr.Davidは一茶の英訳今やっと7000を越えた所です。

今後もお元気で、頑張って下さい。

sakuo
                              

匿名 さんのコメント...

間接的には、すでにお会いした感じもします。LanoueさんのIssaサイトで同じ句の解釈場で、お互いのコメントが。。。もっと助けたいといつも思いますが、執筆に追われて。。。もう少し出世?すれば、又協力します。Cherry blossom epiphanyで一茶句、何百句も英訳されていて、The Fifth Season 新年部の句には何十もあります。一茶句英訳拡大のため、いつでも参考に使ってください。これから出す川柳の本の屁の章、唐辛子の章、それに、あっ忘れたがもう一章に一茶句あります。正直言って、DL氏が一生懸命に一茶句英訳していなかったら、一茶句の英訳から英語出版始めるかとおもいましたが、その熱心と誠?知って引きました。ただし、同時に、一茶(芭蕉・蕪村)ばかりでないという考えもあるから、長めに見たら、その方がよかったかもしれない。

浮け海鼠!