2007-08-05

第1回 週刊俳句賞 互選:選と選評31-40

互選:選と選評31-40



31 兎六

03 成層圏 1点

  窓開けて花殻を摘む巴里祭
  斎宮の袂を抜けて朝螢
  ゆらゆらと祝女戻りくる日の盛
読んでいて自分の知らない光景が開けるという意味で一番印象的でした。
その分、他の句は一息つくという形で読んでしまったのですが。

14 薄荷菓子 1点

白雲に、サーファーの、オート三輪はそれほどではなかったのですが、
他の七句すべて夏の景色が五感に蘇ってくる感じでした。
けれど、実感というよりは読ませる上手さというか、俳句の外側の人でも楽しめる作品だと思います。
四十作品を通して読んでいるとき、この一作だけ読んでいる感覚が違いました。

07 着衣 1点

なにが見えていてなにが気になっているか、
生活と自身の感覚を丁寧に切り取った作品群だと思います。
  見てをらぬときに噴水高くなり
は、私は感じない感覚だけれど、作者がそう思った背景も見えきます。

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32 宮嶋梓帆

18 溺愛 2点

ともすれば蛇足となりがちな、句の中の3つ目の要素が妙だと思った。
これらのどれが「失敗」するわけもなく、一句の成り立ちを左右する要素として存在感を示している点を評価したい。

溺愛や鋏に映る扇風機
(溺愛)
夏空や油膜のごとく怠けゐて
(怠け)
紫陽花の暇さうに咲く昼餉かな
(昼餉)
梅雨寒や姿勢正しき夜のシャツ
(夜)
油絵を深きに飾り夏館
(深き)

全体としてのまとまりも、評価すべき点。
一貫して対象との距離をとりながら、10句がまとめられている。


11 疎遠 1点

観念ではあるが、共感あるいは納得できる句があることに好感をもった。

夕立や駅は戦後のごとく混み
我が脳に水母散乱してをりぬ

ただ、その観念が作者の妄想まで行き過ぎてしまっている例も見られた。

焼跡より黒き跣足の見えてをり
夕焼けにいきなり朱き背後かな
夕立果て裁判所より被告人

これらは作者の妄想によってできた、いわゆる「できすぎた句」となっているように思う。
妄想なら妄想(観念)として、実風景なら実風景としての句となればより魅力が増すように思う。

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33 上野葉月

05 青い椅子 1点

十句中、どうもなじめない句もあるのですが、全体に確かな手ごたえのようなものを感じました。
助手席の茄子ぎゆうと鳴き八王子
は今回の応募400句の中で一番好きです。

30 おしゃれ 1点

何かに挑戦している感じがして好感を持ちました。

31 水すこし 1点

動物句を揃えているところを評価します。すこしきれいすぎる整いすぎている印象はあります。

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34 お気楽堂

10 とろりとあかき 2点

気持のいい句群。なんでもない景をさらっと詠んでいておしつけがましくない。
特別な出来事とか物語でなく、ものすごく共感するというのでもなく、涼風に
ふかれたような心地よさでした。

19 なんだかんだ 1点

  雨ですねほんま雨やなかたつぶり
  はよせんかもうちよつとだけ夏休み

あははと笑ってしまいました。関西弁はずるいなぁと思いつつ、それだけでは
ない魅力に投票。「なんだかんだ」というタイトルがぴったりで、その辺りの
脱力加減も好みです。

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35 小池康生

『週刊俳句』が始まり、数ヵ月後に『俳句研究』の休刊(廃刊)、
これはとても象徴的です。
運営の苦しい紙媒体の俳句誌が、経済的に困窮し、廃刊。

そこに、経済的苦慮がなく、しかも多くの俳句誌が月刊であるところに、
週刊で発行する身軽さ。
しかも、webマガジンということで、結社の政治力に影響されない、
圧力的な声の届かないシステムの中で
運営される俳句webマガジンは、革命的でさえあります。

その身軽さのなかで、俳句賞が始まり、
そこでもwebマガジンであることの特性を意識し、
読者票、互選、さらには総合誌にも劣らぬ審査員、
ここには、既成の窮屈さがなく、
理想を追求する創意工夫があつて爽やかです。

わたしは、<可能性>へ参加したわけです。
その互選ですが、
全体として、なにか読みにくく、一つには横書きのせいもあるのでしょうが、
それは覚悟の上で読んでいたわけで、
読みにくさや違和感の原因は、
文字間が狭すぎたせいではないかと思っています。
この文字の詰まり方は、”切れ”を味わったりするのに向いていないと考えます。

縦書きの印刷物である俳句総合誌も、きっと縦書き俳句表記の文字間隔に
試行錯誤があったことだと思います。

横書きの、webマガジンも、俳句表記のベストを発見していただきたいと
感じた次第です。

さて、
全体の作品を読んでの感想は、
若い作家が多いのかなということでした。
webだから、平均年齢は若いのは当然、
それが既成の総合誌と違う世界を築くのでしょうが、
もう少し、年配の人の俳句も読みたいというのが
正直なところです。

22 碌々

最初の二句が分からなかった。
三句目、
はんざきがゐて水底といふがあり
  これが最初の句なら、もっと気持ちがよかつたのかもしれない。

蜘蛛の囲を破り赤きもの掴み出す
  <赤きもの>と中8なのが気持ち悪い。<赤きを>で
  よかったではないか。句意は面白い。

有刺鉄線空蝉をぶら下げて 
 まるで、鵙の贄を連想する。鵙の贄の季節ではないが、
 この景は、夏の一場面としてリアリティがある。<下げて>は
 <提げて>ではないだろうか。

刈草のなか寸断の蛇の衣
 句またがりも、効果的。ドラマティックな世界が存在する。

黄の色を宙に点じて鬼やんま
 鬼やんまに黄の色があるのだが、こういう言い方で詩を
 発生させる。

 印をつけた句を並べたが、これは『碌々』、つまり”安らかなさま”を
 伝えているかというと、テーマは、裏返しなのかとも思う。

34 日焼けのなすび

 一読、これに3点かと思ったのですが、10句出しで、
 残念な句があるのは、やはり3点ではないなあと感じました。
 
一句目の、

ががんぼのようないとこの婚約者

 どうしてこれが一句目なのか、もったいない感じがします。
 一句目二句目がよく分からない句が多いのも、全体を通じて
 感じることでした。

ご近所のみなさま虹がでましたよ
 今回の全句のなかで一番好きだった句。今見ている虹、どれだけの人と
 共有しているのか、どこまでの範囲で見えているのか、
 虹の範囲は、<近所>という把握がおもしろく、さらには、<みなさま虹がでましたと>
 という呼びかけの明るさがなんとも好ましいのです。

洗い髪とは言えないね短くて
 なんでもないが、人物として魅力を感じる。

夏痩せのせいじゃないでしょその皺は
 ちょっと怖い句。繰り返し読めば<関係性>が見え、面白い。

西瓜ぶらさげて愛馬を訪ねけり
 <ぶらさげて><訪ねけり>という重ねかたがシンドイ。
 しかし、この作者のこういう生活の一面が、虹の句を作る
 素地かもしれなと考えると、この句にも意味があるのかも。
 しかし、作品としては弱い。

39 素足

 ここでも一句目は、シンドイ。
 二句目、

貸しボート指の長さを比べ合ふ
 恋愛感情。皮膚感覚がありながら、いやらしくも無く、
 読み手として恥ずかしい思いをしないで済む。

薄闇を集めて夾竹桃白し
 こういう句は、10句の幅を』広げる。

はんたいのことばを書いて素足かな
 渚の景だろうか。ひらがなの<はんたい>は
 可愛い範囲。省略が効いている。

ともだちの流れてこないプールかな
 <ともだち>は、流れてくるものらしい。
 それが流れてこないというのだ。変な句。
 それでいて、気になる。
 ひらがなの<ともだち>。他の句にも
 ひらがなの<はだいろ>、<はんたい>、
 前半にひらがなの句を配置しておけば、
 もっと効果的なのに。

以上、自分のことを棚にあげ、好き勝手を書きました。
この実験的なコンクールが、ひとつの有益な鋳型となることを
祈り、賞の行方を楽しみに拝見します。

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36 青島玄武

35 シャツ汚す 3点

全体的に無理のない作り方で、好感を持ちました。平明な部分がよく利いていて凡庸にならない、俳諧味を保ちつつも詩性は崩さない、高い技巧が見られたと思います。

ひきがえる中身は全て風であり

ユーモラスな風貌で、夏の俳句の題材に欠かせないヒキガエル。そのユーモラスさを生かしたり、逆に土のなかにいる厳しさをモチーフにした俳句が目に付きますが、その中身を『風』と捉えたのは、この句が初めてではないでしょうか。あの焦げ茶色の、ゴツゴツとした風貌の中身を風と捉えるのは、少しムリがありそうな気がしないでもないのですが、「全て」という言葉で強引に等号で結んでしまったことによって、あのゴツゴツの皮一枚下に清清しい青空があり、わあっと涼風の吹くという、なんともいえない幻想的な風景画が見えきます。その絶妙さに納得の一句だと思いました。

螢狩鉄路のうへを歩みけり

短編映画のワンシーンのような作品。読者に想像力で、どのようにも展開できる楽しさがあります。

黒南風や訊きなほしたる島の数

「訊きなほしたる」にとぼけた面白さがあります。句の中の一言の置き方で、こうも句の中の世界が変わるのかと痛感せずに入られません。

夕涼み家族がそばにゐる街の

最近、句の終わりを「の」にする句をよく見かけます。この句も、終わりを「の」にしていることによって、町のどこで夕涼みをしているのかを読者に任せています。この「の」はよく利いていると思いました。

四万六千日東京タワーにも寄りて

浅草寺のお祭り、四万六千日。扱いにくい季語だと思いますが、意外にもお祭りそのものの風景ではなく、「東京タワーにも寄った」という外し。浅草寺・東京タワーという、東京の二大観光スポットを一句の中にぎゅうと押し込み、箱庭的な都会の風景を独特の俳諧味でくるんだ面白い作品です。

点すまでぶつきら棒な花火なり

手花火を点しているときの句は数あれど、燈す前の姿を呼んだ区はなかったと思います。その着想の時点でこの句は成立していると思いますが、そこに「ぶつきら棒な」という形容。火を燈してこそ生きる花火の、その前の姿は、たしかにふてくされて寝ているような姿です。「花火かな」とせずに、「なり」で切ったのも、花火のぶっきらぼうさをよく表していると思いました。

夏の果川の漁師の網細か

ただ、網が細かいことしか言っていないのですが、「夏の果」という季語の斡旋によって、徐々に秋へ移り行く淡いペーソスが、皮のせせらぎとともに聞こえてくるような繊細な句です。

「何もいわないけど、何かある」俳句の面白さと醍醐味をあらためて実感する作品群だと思いました。

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37 前野子壱

02 白紙の願書  1点

良い句があると思いました。柔らかく薄き靴底聖五月、暫くは採血の跡半夏生など○。白紙の願書を題目にしたのは何か理由があるのでしょうか?若い主婦の方かもしれませんね。ちょっと説明的な句もありました。次の間に、皆揃い、風鈴や、きょうだいの、などです。

28 オイルタンクの空  1点

27とどちらか悩みました。上手さは直近の27の作品が上手いかと感じましたが、心の動きが見えるので、こちらに1点入れました。前半中盤に良い句がありました。後半の句はちょっと。つま先のの「一途や」、空蝉のの「背な?より」などです。夜濯やの句、どこかで見たような気も。

34 日焼けのなすび  1点

口語体の使用が試みとして心地よく感じました。佳句も多し。でも、一連の流れで第九句目はこれいかに?突然けりが出てをりぬ。それと、なぜなすびなのですか? いとこの事か作者か、その配偶者の方なのか気になって眠られなかったので(嘘ですが)教えていただけると幸いです。

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38 上田信治

07 着衣 1点

「常設展順路たつぷり緑さす」「如雨露から捩れた水の出てきたり」
「見てをらぬときに噴水高くなり」「敷物のやうな犬ゐる海の家」と、
いただきました。「敷物の」の句。犬をモップや敷物に例えるのは常套
ですが、そんな毛の長い犬がいるというのは、なかなか、今風の「海の
家」の風景だと思います。客じゃなくて店側の人間が連れてきた犬かも
しれず、そんな海の家が好きかどうかは別にして、新しいかな、と。
「新緑が着衣の端に染みてくる」は、ちょっとつらいです。

20 更衣室 1点

「小さきもの買ふためにある夜店かな」「ロックフェスの大光源へ夕立かな」「遠泳やあたまのなかで歌ふうた」と、いただきました。特に「ロックフェス」は◎。これいやだー、という句が見あたらない手堅さも○。「沿ふ川に夜店のあかり流れけり」の「沿ふ川」という言い方などは、上手く言うことが目的化してしまっているような気もするのですが、上手いことを傷とは、言えないですし。(ちょっと、くやしまぎれが入っているw)

40 ぶんなげて 1点

「目と鼻の間に飼うてをる蚊かな」「雷雲をたくしあげたるだけのこと」「ぶん投げて去りぬ夕立の神様は」と、いただきました。「ぶん投げて」の句。人はみな、自分もいろんなことを「ぶん投げて去り」たいと思っているわけで、憧れます。「神様」に憧れさせる句なんて、すごいじゃないですか。

次点 06 さびしいかたち 

「修司忌の田んぼの上の空が青い」と「六月がトイレットペーパーの芯」が並んでいたので、作者を信じる気になりました。でも、どっちかだけでは、信じられなかったろう、ということで次点。

好き句
01「目高とるいきなり網を突つこんで」
02「白シャツに重き携帯電話かな」
03「一歩ごと如露より水のこぼれけり」
08「露台てふうちのそとがはにて侍り」「停留所まで豆腐屋の打水は」
09「閑古鳥グラタン皿の白さかな」
10「掌をかへせば裏へかたつむり」
14「カレーの具おほかた溶けて海の家」
15「籐椅子の夫人は靴を脱がざりき」
18「切り口を運河に向けて西瓜売る」
23「洗濯機まわる夕立の迫り来る」
24「あをぞらの真下に瓜の冷えてをり」
32「ローソンの青の青さよ夏の月」
35「ひきがえる中身は全て風であり」

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39 宮本佳世乃

18 溺愛 2点
くっきりはっきりコクのある作品群。表題句は抜群だと思います。

14 薄荷菓子 1点
言い過ぎることのない、穏やかなつくりでいいと思いました。

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40 島田牙城

38 吊具 2点

1,3,6,8,10句目に特に注目しました。

俳句は日常のほんの些細な出来事なり、

一般には出来事とも捉へられないほどの動きの中にあるのだ

といふ、この作者の声が聞こえてきさうな作品群でした。

10句目 濡れ傘を巻かず持ちをり夏の暮

の傘や、5句目のフォークには、たくさんの物語が潜んでゐるやうです。

また、この方の作品には大きな失敗がありませんでした。


39 素足 1点

この作者も、大きくは失敗しない人ですね。

また、8,9,10句目に僕はこの方の可能性を感じるのですが、

ラスト3句がいいといふのは、読者・選者としては有難いことです。

正直、そこまでの7句は平均点の句が並んでゐるのですが、

最後に来て大逆転をしてくれた感じです。



(総評)

一回づつ、全作品に5点満点で点数を付けながら、
編数を絞つていき、都合四度読みました。
第一回選考で25編残し、

01,02,03,07,08,09,10,14,15,16,20,21, 22,
23,24,25,28,32,33,35,36,37,38,39,40

一日置いて、第二回選考で10編に絞り、
この10編に我が応募句が図々しく残つてゐたので、
これはこの段階で去つてもらふことにしました。よつて残り9編。

01,03,08,10,21,24,32,38,39

また一日置いて、第三回選考を実施、
03,21,38,39を残し、再読の後、38に2点、39に1点とすることにしたのです。

最終的に落とした03と21について簡単に触れませう。

03 成層圏

僕は2,3,4,8,9の5句に注目したのですが、
1,6,10句目は未熟、
5,7句目は、たつた10句の中に「斎宮」と「祝女」が登場することに違和を感じとしまひました。
幅広い多様な作風が10句に混在してゐて、将来性の高い方だらうと存じます。

21 悪魔辞典

人名読込俳句で統一する力技の10句で、読み応へ十二分の一連でした。
特に2,4の2句に僕は満点を付けてゐます。
俳句の核心を会得してゐるだけでなく、
能力・センスを持ち合はせた人だと思ふのですが、
「タマラ・プレス」が1960年代の陸上選手
「イリア・クリヤキン」がナポレオン・ソロの相棒
だと知つても、それ以上の面白さを見出せなかつたのです。
策に溺れたとも言へますし、僕の読解力不足とも言へるでせう。
特に9句目の「木立→梯子→実生」の連想は失敗と思へました。

あと、注目した句は、

08夏痩 3句目
10とろりとあかき 6句目
24焼け残る 5句目
28オイルタンクの空 5句目
32ひるがお 1句目と5句目
など。全体的に面白い選でした。

結果的に、中年(?)の風格ある作風と、若い(?)ながら堅実な作風といふ
違ふ手応への2編を推せたことも僕としては満足してゐます。
有難う御座いました。(以上)





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