2007-11-11

はじめてのキャバクラ 谷雄介

はじめてのキャバクラ ……谷雄介



まだ上京したばかりで、右と左の区別くらいは分かっていても、新宿と原宿の違いがわからないくらいの頃に、僕は翼さんと初めて出会った。最初はたぶん嫌悪感が先行した。いろんな意味で青臭かった。

はじめて僕をキャバクラに連れていってくれたのは翼さんだった。

会って何度目のことだったかは、もう忘れてしまった。初めて会ってから、そんなに日は経っていなかったような気がする。それは新宿駅近くのキャバクラだった。お店に入ると、少し薄暗い店内にいくつかの人影がひしめいていて、若い女の人たちの明るい声と、たぶん男の人たちのくぐもった声とが交互に聞こえた。2人が席に座ると、すぐに若い女の子が2人現れた。「よろしくおねがいしまーす!」と言われて、「あ、よろしく御願いします」と返して、さて、どうしたものか、何を話していいか、全くわからない僕は、翼さんの話にただ相槌をうつしか術を知らなかった。

翼さんの話の持っていき方はすごく上手くて、初対面の女の子の懐にもすっと入っていく感じがある。そして、それが厭らしくない。サービス精神が旺盛な人だから、とにかく女の子を楽しませて、笑わせて、それを自分の楽しみにしているように僕には思える。

「俳人はモテなきゃダメだ!」というのは、翼さんの口癖。

もちろん翼さんはすごくモテる。翼さんと飲んだり、翼さんの家に遊びに行くたびに、誰かしら女の子がいるのだが、毎回違う女の子が隣にいる。しかも興味深いのは、どの女の子も可愛い子なのは当然として、皆とてもいい子だということ。優しいし、機転が効くし、話も上手い。

先日の翼さんへのインタビューの後、ゴールデン街でしたたか飲んで、それから新宿駅近くのキャバクラへ。初めて連れていってもらったときと同じキャバクラ。もちろん翼さんには全然かなわないけれど、あまり肩に力をいれず、楽しくお話することができた。そして、翼さんとは少し違う切り口から話をしている自分に気がついて、改めて「僕は翼さんになれないもんなあ」ということを考えていた。そして、「僕は翼さんにはなれない」という事実は、ひっくり返せば「翼さんは僕にはなれない」ということだし、僕と翼さんとの師弟関係において、それはたぶんとてもいいことなのだろうなと思った。


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