ひらの こぼ ストライクゾーン
新蕎麦や簾の外のよく見えて 久保山敦子
よく見えるということは外は秋晴れ。日差しも強い日なんでしょう。で、蕎麦屋さんの薄暗い店内。明と暗の対比が絵になっています。しっかりした写生句だなあと思いました。「山寺は石の寺秋澄みにけり」にも惹かれました。
屋上に秋の蛹が横たはる 鴇田智哉
十句を読んで「ずいぶん難しいところを狙っておられるんだなあ」と思いました。ストライクゾーンすれすれを力を抜いたかのようなボールがきます。でも実はかなりの変化球だと思います。
秋の蛹というと冬の蝶の蛹なんでしょうか。そのあたりの含意はよく分かりませんが、「屋上に蛹が横たわっている」と言われると、なんだか巨大な蛹を思ってしまいます。やっぱり俳句は面白いです。
十月のビルの谷間に道のあり 寺澤一雄
「一月の川一月の谷の中」(飯田龍太)を重ね合わせて読むと味わい深いです。十月でなければならないという気にもなってきます。でもどういうことなんでしょうか。営業不振のサラリーマンが上期の落ち込みをなんとか下期で……などと考えながらビルの谷間を歩いています。そろそろ銀杏並木も色づいて。そんなシーンを思い浮かべました。違うでしょうけど……。
吊革のぶつかる音や冬の月 加藤かな文
今回、この句に一番惹かれました。ずいぶん詩的です。音を冬の月へと形象化するようなところもいいです。シンプルな句姿も決まっています。
乗客も少ない車内で聞こえるのは吊革のぶつかる音だけ。そして車窓には冴え冴えとした冬の月。なんだか淋しいような情景ですが、そういった情緒を持ち込まないのは「切れ」の効用なんでしょうか。いいですね。
■ 久保山敦子 「月の山」10句 →読む■ 鴇田智哉 「ゑのぐの指」10句 →読む■ 寺澤一雄 「生姜の花」30句 →読む■ 加藤かな文 「暮れ残る」10句 →読む
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2007-12-02
ひらの こぼ ストライクゾーン
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