2008-10-26

テキスト版 中村遥 金の指輪

金の指輪  中村 遥

一瀑を仰ぐや鎖骨尖らせて
河骨の咲くとき水に鈴の音
夏炉焚かむ雨の吊橋来る人に
雨の木の音のほがらか葛まんぢゆう
白き鳥来てゐる寺の曝書かな
笹百合の山に竪穴住居跡
避暑に来てにはか漁師となりにけり
海鳥の夜鳴きはげしき円座かな
箱庭に十賊十本植ゑにけり
耳遠くなりたる海女や日向水
流木に座りて唄ふ洗ひ髪
舟板に湿りし花火干しにけり
線香の工場の軒の外寝かな
舟漕がむ銀漢の尾に触るるまで
水晶山指さしてゐる案山子かな
啄木鳥の森に点字の道標
秋簾今朝より舌の痺れゐて
沓脱ぎに濡れたる銛や後の雛
靴の音高く人来る良夜かな
みづうみに石投げて月待ちにけり
月の座に鳴る中世のオルゴール
蓑虫の糸月光の途中より
呼び交す漁夫の大声十三夜
小鳥来る顔の体操してをれば
濡れてゐる魚拓に釣瓶落しかな
塩を炒る火を落したり雁の声
船笛に目覚めし真夜の濁り酒
末枯れを来る末枯れのやうな漁夫
老漁夫の金の指輪や鳥渡る
耳の奥痒しや朴落葉踏めば
なまなまと海鳥の声蕪引く
雪折れの音の畳に坐らむか
冬座敷人の匂ひのなかりけり
船笛か耳鳴りか鰭酒に酔ひ
雪をんな乗せて不漁の舟戻る
寒鯛を絞める花柄合羽かな
探梅の果て燈台の畑の梅
海風に髪のそそける御屋根替
虫出しの雷や大きな捨人形
花衣脱ぐや漁火戻り来る
干魚を炙りて桜月夜かな
寄居虫は殻を脱ぐとき見得を切る
巣立鳥まず帆柱に止まりけり
国生みの島の御饌田の田螺かな
春泥を踏み抜き獣医来りけり
げんげ田に光るは野犬捕獲箱
苗代寒にはとりの眼の裏返る
踏青や首に吊りたる土の笛
香ばしき塵を降らすよ雉子ほろろ
聞香の果てたる島の遅桜

6 comments:

匿名 さんのコメント...

島?の暮らしが見えてくる作品群。
一句一句、完成度の高さを感じました。

●耳遠くなりたる海女や日向水

職業柄、そういうことがあるのでしょうか。
それとも単なる加齢?
耳の遠さと海中の静けさがダブります。
「日向水」が絶妙。

●塩を炒る火を落したり雁の声

海水から天然塩を作っている様子でしょうか。
火を落すと塩を炒る音とともに明るさも失せます。
「雁の声」がとても効果的にはたらいていると思います。
以下、好きな句。

●流木に座りて唄ふ洗ひ髪
●啄木鳥の森に点字の道標
●小鳥来る顔の体操してをれば
●末枯れを来る末枯れのやうな漁夫
●雪をんな乗せて不漁の舟戻る
●寒鯛を絞める花柄合羽かな

匿名 さんのコメント...

ちょっと勘違いかも。
塩を作るのは塩を煮る、ですね。失礼しました。

匿名 さんのコメント...

・やまちあんさま

早速のコメントありがとうございました。
大変嬉しかったです。

海水から天然塩を作るのは
潮を焚く、潮を煮る、と表現すると思います。この句は製品になった塩を炒りなおすと
意で作ったのですが・・・。

匿名 さんのコメント...

先程の匿名は 中村遥:はるか でした。
初めてのことで、要領がわからなくて
失礼しました。
文中の誤りもお許し下さい。
  炒りなおすと意→入りなおすとの意

匿名 さんのコメント...

●白き鳥来てゐる寺の曝書かな

オツです。

●蓑虫の糸月光の途中より

これは綺麗な句ですねえ。かなり好きました。

●雪折れの音の畳に坐らむか
●冬座敷人の匂ひのなかりけり

冬の感じ、座敷の感じ、です、じつに。

●春泥を踏み抜き獣医来りけり

「抜き」まで言ってくれて、獣医が際だちました。

全体として、連作の一体感を伝えるための句より、むしろそこからはみ出る(というか、屹立する)句のほうに惹かれた感じです。

匿名 さんのコメント...

啄木鳥の森に点字の道標
摩訶不思議な雰囲気の森を感じました

月の座に鳴る中世のオルゴール
「月の座」が面白いです