2009-08-30

〔テキスト〕堺谷真人 金塊

2009年度現代俳句協会新人賞・落選作

 金 塊   堺谷真人

朧夜の魚跳ねて水たゝきけり
春風にめくれて民事訴訟法
千年の切株に坐し遠霞
七色のマカロン包む春日影
咲き満ちて百のカメラの上にあり

花冷や駅に降りたつ旅鞄
花人の一人は身元不明なり
渡殿を趨るあしおと花の雨
花吹雪突つ切つてゆく臨時バス
春の土はるかより雨はじまりぬ

一村の橋朽ちてをり桃の花
楠若葉雨後の鉄棒にほひけり
一徹の頤を張り初つばめ
背伸びしてこの世を覗くまむし草
今生の母はやさしき春の鹿

脳幹に白藤通す遊びかな
虚空より蒼き馬来る聖五月
原罪のごとく朴咲きはじめたり
連れ立ちて青田を帰る他人かな
某子爵旧蔵といふ黴の花

太蜂のずんと抜けたる茅の輪かな
泳ぎ疲れて金塊を手放しぬ
鱗なき身をよこざまに日焼かな
白蟻のごとく神官騒ぎだす
碧眼の兵碧眼の蠅を打つ

酔芙蓉影よりも人淡かりき
櫂そろへ急ぐ色なき風の中
長き夜の酒借りに来る女かな
鰭酒をこぼし琥珀のループタイ
昂ぶりの一弦切れし冬銀河

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