林田紀音夫全句集拾読 088
野口 裕
青い薄暮の想いをのこしゆりかもめ
平成六年、「花曜」発表句。暮れた水面にゆりかもめの白。微妙な時の移ろいを、「青い薄暮の想い」とゆりかもめに見る。
機首あげて飛ぶ絶望の夕日の国
平成六年、「花曜」発表句。作者の立ち位置はどこか。離陸機の機内から窓越しに夕日を見ていると解しても不都合はない。しかし、たまたまの路上で離陸機の轟音を聞きつけたところとも考えられる。「機首あげて」が、離陸機の形容であり、かつ自身の見上げる動作とも重なる。そこに「絶望」と言いながらも、「絶望」以外のかすかなあこがれを滲ませているのではないか。
句集以後の佳句として、しばしば取りあげられる句だが、「海程」発表句の中にはない。この句に限らず、「花曜」発表句の方に見るべきところが多い。
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跳び箱は墓標のひとつ走り出す
平成六年、「花曜」発表句。「跳箱の突き手一瞬冬が来る」(友岡子郷)を思い出した。似たものを見ながら、焦点の合わせる地点が異なる。紀音夫は無限遠点、子郷のそれは現実の一点。紀音夫はあくまで、見る者の位置を崩さず、子郷の目は手に乗り移る。
句会の挨拶句だろうか。海程発表句に比べて、花曜の句に精彩あるものの多いのは、あるいは句会のせいかもしれない。そう考えると、花曜にしか発表していない理由も納得が行く。
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2009-10-11
林田紀音夫全句集拾読 088 野口裕
Posted by wh at 0:05
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