テキスト版 2009落選展 久留島元 感染拡大

　感染拡大　　　久留島元

水を飲む猫の舌先春浅し
楽園の河馬舎の前にミモザ咲く
象の背の砂金のような春の汗
ペリカン舎カモメ舎カモ舎青鷺来
虻生まる白鷺城の西の丸
鶯の谷渡り鈴鳴る方へ
水馬に影ある山に日が沈む
飛び降りてみたい石段山笑う
狛犬と狛犬の子と東風のなか
初夏の夜景の町へ下りていく
漢文学教師の煙草竹の秋
つばくらめ一羽二羽五羽子は三羽
樟若葉巡幸すこし遅れ気味
「馬が来る」サンダル三歩下がるべし
サングラスマスクにカメラ人いきれ
黒駒の大腿筋に夏光る
横断を遮断し葵祭来る
自転車が祭礼横断青葉風
風光る流し目の稚児牛車率て
斎王代の頭上真っ直ぐに鳶
牛車東進逆進の航跡雲
牛車東進航跡雲の根元まで
牛車東進歓声は稚児へ稚児へ
ボタン押す薄暑の風呂を追いだきす
感染者あらわれ神戸薔薇が咲く
感染拡大　初鰹いただく
感染拡大　新緑も自粛せよ
感染拡大　ががんぼの来訪
感染拡大　慌てずに浮いてこい
手洗いし除菌し夏蜜柑をむく
雲段々夏めき地にはマスク増え
買いだめのマスク石鹸ところてん
緑陰に少年マスクのし歩く
金魚玉路地でこっそりマスクとる
ウィルスを憎んで人を憎まぬ鱏
蛙鳴くついに休校措置とらる
大道閑散　陸続と躑躅
雨蛙アルカイックスマイルの如し
弱毒性インフルエンザゼラニューム
夕立の自宅待機の真っ最中
はたた神もらった句集に○や×
人に会うわけにもいかず蝉丸忌
守宮にも外出禁止あと二日
夏の空路線変更してもよい
感染は終息気味と天道虫
マスクとる今年は蛍見に行こう
南風吹く誰もマスクをしておらぬ
鴨の子も感染寸前かもしれず
五月雨を集めて流すなにもかも
五月尽あとには鴉歩むのみ

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