昧 爽 中嶋憲武
柿若葉プロパンガスのボンベ二基
初夏や酢飯大きくかきまはし
青柿のくらがり人を待つてをり
どら焼の丘のふつくら梅雨に入る
青梅落ちて女子寮の犬走り
紫陽花にひと悶着の男女かな
花氷小さき靴べら使ひをり
通されし宿の窓より青田波
打水の禁句のやうに撒かれをり
黒人のミラーグラスや夏の蝶
夏の露用なき外へ出てゐたり
金魚売硬貨を渡す手の濡れて
蚊柱の布教のやうに立ちにけり
盆用意鉄砲玉となる女
野分雲匙を突つ込む粉ミルク
自転車のきらりきらりと稲の花
屈託のややありて立つ案山子かな
数珠玉をつなぎて行方知れずの子
鳥渡るとんがつてゐる競技場
栗爆ぜて遠き一灯ありにけり
鵯や鏡の中の晴れて来し
十六夜やローリエの葉の二三枚
十月やサーブの球を高く上げ
昧爽のパン屋の灯り秋の川
一人つ子柚子の転がる方へゆき
コピー機のひかり滑りぬ冬の雲
冬の夜の大きな百科事典かな
室の花少女のコップきらめいて
日向ぼこレコード針のちりちりと
訃報あり寒き便座に腰下ろす
しぐるるや無頼の果の壷ひとつ
着ぶくれて揺れをり車両連結部
すれ違ふ女が泣いて年の市
シャンソンや東京の冬あたたかし
日脚伸ぶ南どちらか聞いてをり
祝日の工場へ入る春日傘
ロッカーへ卒業の子の体当たり
野遊の水のきらきらして終はる
椿みな外向いてゐる団地かな
点々と機会油の春田の面
雨の日の職場あかるしサイネリア
春昼の地下の軽音楽部かな
似て非なる双子のひとりスイートピー
三月や部屋の昏さを言ふひとり
つちふるや野球部員のハイネック
門灯のまるく灯れる帰雁かな
まんさくやフォークソングの眠き歌詞
浮かれても浮かれても鬱ヒヤシンス
紋白蝶投込寺の行き止り
菜の花のフェンス作業服の干され
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2009-10-25
テキスト版 2009落選展 中嶋憲武 昧 爽
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3 comments:
黒人のミラーグラスや夏の蝶
このミラーグラス、ペタっと濃い灰色あるいは茶色ではなく、何色か(虹色)が階調になったハデなものを想像した。すると、黒色に鮮やかな斑(ふ)の模様の入った夏の蝶を思わせる。「や」切れだけれど、見立て、ちょっと興趣のある見立てに読める。「コピー機のひかり滑りぬ冬の雲」も見立てと解した。この句については、長くはならないけれど、自分のブログに書きました。
好きな句など。
初夏や酢飯大きくかきまはし
花氷小さき靴べら使ひをり
通されし宿の窓より青田波
蚊柱の布教のやうに立ちにけり
盆用意鉄砲玉となる女
十六夜やローリエの葉の二三枚
コピー機のひかり滑りぬ冬の雲
訃報あり寒き便座に腰下ろす
点々と機会油の春田の面
春昼の地下の軽音楽部かな
「初夏や」,家で酢飯が頻繁にかき回されるようになるのは,やっぱり夏に入る頃で。酢飯をかき回す役をやらされた子どもは,この匂いで夏を感じたものです。大きく,という言葉が簡素なのに実感があるのです。
「花氷」,小さき靴べらと言うだけで,大時代的なホテル旅館が見えてきます。ロビーの絨毯が妙にふかふかだったりして。
印象句
柿若葉プロパンガスのボンベ二基
どら焼の丘のふつくら梅雨に入る
青梅落ちて女子寮の犬走り
蚊柱の布教のやうに立ちにけり
自転車のきらりきらりと稲の花
コピー機のひかり滑りぬ冬の雲
冬の夜の大きな百科事典かな
着ぶくれて揺れをり車両連結部
シャンソンや東京の冬あたたかし
ロッカーへ卒業の子の体当たり
菜の花のフェンス作業服の干され
都市郊外に残された田園地帯を彷彿とさせる句が多いようです。吟行というよりも、そこに生活している人間が見た一景というおもむきです。
良くも悪くも現代の日本を象徴する地域に焦点がぴたりとあっている、そんな感想を持ちました。
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