2010-06-06

楽しい波郷 西村麒麟

小特集・石田波郷
楽しい波郷

西村麒麟


波郷の句の中で、どんな句がぱっと思い浮かぶだろうか?

秋の暮?霜の墓?病む生なりき?

どうも波郷には、若き日の青春、切れ、病気、等のイメージが強い。本当にそればっかりなのだろうか?

本当は僕らが大して読んでないだけなのではないだろうか?

『季題別石田波郷全句集』が去年発売された、これが面白い。おそらく買ってない人の理由としては、読本がある、全集も持っている、と言ったところだろうが、駄目です、そうじゃない、『季題別石田波郷全句集』を買いましょう、別に僕は売ってこいと言われたわけではないけど、この本はおすすめしたい。

実はこの全句集の面白さは、未発表句の多さにある、こんな俳句を波郷が!?駄目だけど、駄目だけど面白い、と言う俳句がたくさんある。

ブランデーの酔ツーロックシヤンプやや暑し

一読して、変、どうあがいても名句じゃない、でも駄目だ駄目だと言いながら、声に出して読み続けると・・・意外と面白い俳句の気がしてくるから不思議だ。僕は収録されている波郷の未発表句は全部読んでみたが、波郷の親しい人達や馴染みの酒場から譲り受けた短冊ばかりなのだろう、読んでいて暖かな気持ちになる。特に、僕らのような若い世代の俳人達に読んで欲しいとも思う、いつまでも『鶴の眼』『風切』『惜命』ぐらいしか読まないのは可哀想に思う。この全句集は、波郷が好きになるきっかけになり得る本のような気がする、この未発表句を読めば、波郷の人間臭さ、なぜ人から好かれたのか、等がわかるような気がする。

木瓜の春ヌードに現抜かすなよ

好きな句だ、おそらく波郷が写真に凝ってた時期の俳句ではないだろうか、馬鹿馬鹿しくてあったかい。

迎へ且つ送る酔漢が春惜しむ

気持ちがわかる、これも好きな句、酔っぱらいは、ほんとにろくでもない、ろくでもないけど、見ようによっては可愛いではないか、ぞろぞろと酔っぱらい、皆友達が好きなのだ。

大寒のバア鶴帰る如く訪ふ

またしても、気持ちがわかる、ただいま、と言いたくなる飲み屋は宝だ、それにしてもバア鶴とは・・・泥酔は必至。

遅れきてあんこう鍋の無かりけり

前書きに、大沢初代氏の代りに、とある、代りにって・・・、波郷は実にお茶目なのだ。おそらく懐手をしながら、ふふふ、と笑うんだろう。僕ならあんこう鍋より波郷の短冊の方が欲しい、遊び心がたっぷり。

三鬼に女いぬ冬椿咲きつづく

仲良しだったのだろうなと思う。一緒に飲んでる時にでも、くくく、と言いながら作ったとしたら嬉しい。

北海道は誰も行きたし雪初め

食べ物はうまいし空気はきれい、それはみんな行きたいだろう、鶴で吟行会か何かの予定があったのだろうか、何でもないけどわくわくする俳句。

まだまだあるがこんなところで。飲み屋でさらさらっと作った俳句をなんだかんだと言われて波郷はきっとおもしろくないだろう、けれど僕は面白いのだから仕方がないだろう、地獄に行ってから土下座すれば良い。

僕は、石田波郷を変に神格化すべきでないと思う、楽しい波郷、そんな一面だってあって良いはずだ。そこに俳句があって本がある、僕らの宿題は山積みだ、あぁとても、僕は楽しい。

1 comments:

たくちゃん さんのコメント...

楽しい波郷句を紹介してくれてありがとう。
確かに、読んで楽しい。
波郷のイメージが変わったけど、これもまた波郷の持っていた一面でしょう。
未発表句、もっと読んでみたくなりました。