2010-06-27

〈年老いたデザイン〉を考えてみた〔前篇〕 鈴木不意

〈年老いたデザイン〉を考えてみた 〔前篇〕

鈴木不意


「週刊俳句」156号で「蒐」4号を採り上げてもらった。さいばら天気さんの〈デザインは世界を変えるか?〉という文章中の次の言葉を読んで、面白い表現をしたものだなあと感心した。

結社誌・同人誌の多くが同じような顔をしていると前に言いましたが、なぜ似ているのかといえば、どれも「年老いた」感じのデザインだからです。 
この「年老いた感じのデザイン」という表現が現在の俳誌をうまく言い当てているのではないか。

私が目にする結社誌、同人誌は少ないが、たいていのレイアウトは似たり寄ったりで「読む面白さ」とは別な「見る面白さ」はあまり感じられない。断っておくが、似通ったレイアウト自体が悪いというのではない。小さなA5判で納めるとなるとどうしても似た傾向のレイアウトになってしまう。

ただ、ページのレイアウトデザインは俳句を作ることとは違う目を持つことも必要だと考える。それなりの工夫はされているのだが、なぜ「年老いた感じのデザイン」に見えるのだろう。

■『虚子消息』から

結社誌のページデザインの流れを俯瞰するには資料がなくて困難だが、現代的な印刷手法という点で探るなら、明治31年に「ほとゝぎす」が松山から東京に移ったあたりに遡る必要がある。子規は学生時代に新聞を作っていたこともあり、編集に力を入れたことは間違いないが意匠(デザイン)、組版(レイアウト)へも当然腐心しただろう。子規没後から高浜虚子に至って現在の結社誌の雛形というか様式ができあがったと推理しているのだが。

どこの結社誌、同人誌もみな編集作業となると苦労している。脇道にそれるが、「ホトトギス」900号記念の『虚子消息』は、明治32年から昭和34年までの虚子のつぶやきがまとめられている貴重な1冊だ。そこには編集・印刷・発行に関する思いが随所に出てくる。

例えば、「ホトトギス」昭和17年5月号には紙の配給が遅れたための遅刊のお詫びがあり、同12月号ではページ数が減っていくことのことわりが書かれている。その理由は戦時下と言えば合点がいく。紙の配給制により思うようなページ数を確保できず、そのために誌面における文字は小さく、行間は狭くという状況で、出版できるときには天こ盛りとなるのは仕方がなかったようだ。

このあたりの推移を『虚子消息』(東京美術・昭和48年9月30日発行)から抜粋してみた。

だんだんと頁を減らさなければならんことになつて来ます、これは世間一般の事で、今の時世に応ずる為には止むを得ない次第であります。(昭和17年12月号)
今度また紙の制限の大きなものがあるさうでありまして、わがホトトギスの如きも極めて尠い頁数で我慢しなければならぬ様子であります。(昭和18年1月号)
愈々紙の大削減といふ事になりました。雑詠を三段組にすることに なりました。同時に文章の方も三段組にして、少ない頁に前同様の収容力があるやうに心掛けました。(昭和18年2月号)
又々紙の配給の激減を来しまして、およそ二十四頁を限定とせねば ならぬ割合となりました。之では従来の雑詠だけでも載せ切れない事になります。どう致してよろしいやら目下思考中であります。(昭和18年5月号)
頁数に少しゆとりの出来たことは何より嬉しう思ひます。四十頁くらゐまではよろしいことになりました。(昭和18年6月号)
ページ数縮小のため本号も亦ごらんの如き体裁のものとなりました。(昭和18年12月号)
雑詠の三段組とは驚きである。文字の大きさを小さくするしか手がないではないか。ページの増減には虚子も一喜一憂である。それにしても天下の「ホトトギス」が24ページという時期があったとは。載せたくても載らなかった句がこの時期に相当あったと想像出来る。

さらに昭和19年6月には「玉藻」「俳諧」の2誌が「ホトトギス」に併合された。昭和20年5月号などは印刷の後で罹災(空襲であろう)により半分ほどは灰燼に帰す。この号以後の発行は中断し、発行再開は敗戦の8月を跨ぎ同年10月号だった。
年尾の蘆屋の家は罹災焼失致し候。(虚子記)
大変な遅刊と相成候。来年一月号より定期に出し度存候。
(昭和20年10月号) 筆者註:全文でもこれだけ。
虚子のつぶやきから、その時期の誌面をイメージしてもらいたい。狭い誌面に窮屈に詰め込んだレイアウトを。なんのことはない、この頃のレイアウトイメージを今も引きずっているきらいがないだろうか。初学のころ手にした俳誌はたいていそんな具合だった記憶がある。

「年老いた」感じのデザイン・・・とはこうした窮余の策だったレイアウトイメージから抜け出せないままリニューアルを繰り返した結果だと考えている。なぜそうした経緯をたどったのか。私はデザイナーが介在しなかったからだと断定する。

【珈琲タイム】

有名な結社誌をのぞいてみれば‥‥

http://www.haisi.com

「俳誌サロン」は、よく知られた俳誌が手軽に目にできるのでよく見に行く。百花繚乱とは言わないまでも個性的な表紙デザインがずらりと並んでいる。これらを開いてみれば、どの誌面にも工夫が見られ個性がある。印刷された誌面と同じものかどうかは確かめていないが、結社ごとの苦心が見えてくる。

続きは次回に。

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