夏炉 五十嵐義知
つちふるや出羽の山のなだらかさ
本堂をかくして枝垂柳かな
峰々の春来たる川流れけり
同じ名も色分けさるる苗木市
踏青の土踏み影を踏みにけり
浮きあがるほどにうすかり春の虹
光受く連翹光放ちけり
春の沖まばゆきところどこまでも
緑立ち万物もみなひつぱれる
春の風汀一面ぬれにけり
貝寄風や海より戻る川漁師
自転車のすぎゆくはやさ桜東風
飛花落花川舟五艘つづきをり
花吹雪手にすくはれてゐたりけり
花びらのとどまりやすき花衣
花散りて水面の青き草の上
風光る船頭竿を横にもち
真ん中に一里塚ある花菜畑
川底に石敷きつめし春日傘
身の内の花の色たる乗込鯛
暮れてよりしろつめくさの咲きにけり
雪柳対岸に崖ばかりなり
いくたびも形くづさず春の雁
春雨や人地に足をつけ歩く
山脈の頂ばかり遠霞
暗闇の端にふれたる春月夜
風や音途切れて春の眠りかな
枝先を切られし先に囀れり
れんげ草小さき炎立ちにけり
春更けて空の青さのあきらかに
葉の陰にかくるる亀の鳴きにけり
春暮れて木の影黒く残りたり
水紋の岸まで届く夏隣
遠足の休憩地なる関所跡
風船の我が身を空へかへしをり
機関車の煙のこりし代田寒
谷川の流れとなりて今朝の夏
菖蒲湯を肩より浴びてゐたりけり
足首に青きかざりや風薫る
笹粽まとめて縦に置きにけり
奥州の深き谷間の夏炉かな
田植機に乗りても田植笠被り
塩の結晶すこし見えたり豆の飯
大木の林に夜の新樹かな
萍の一枚たりともかさならず
蔦茂り雨粒弾みゐたりけり
石垣に苺の枝の長かりし
雲上の杯のごと朴の花
麦飯の破線いくつも折れまがり
夏掛のはなちてはまたひきよせり
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2010-10-31
テキスト版 2009落選展 五十嵐義知 夏炉
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3 comments:
一句一句悪くありません。良質の花鳥諷詠だと思う句もあります。
ただ、江戸時代の発句かと錯覚してしまうような句、数百年分の類想がたくさんありそうな句が多いです。ご高齢の有馬主宰の句の方が(比較して)大胆で若々しいのは問題です。角川の傾向として、伝統俳句的でありながらも現代の事象を詠んでいる作品が評価されやすいです。
〈風光る船頭竿を横にもち〉
風光ると言いながら、水面が光っているのだろう。川下りの観光船か。何げない動作が見えて、気持ちのいい句。
〈貝寄風や海より戻る川漁師〉
そりゃあ、そういうこともあるでしょう、という、へんな面白さ。
?〈峰々の春来たる川流れけり〉〈花散りて水面の青き草の上〉ちょっと言葉に無理のある句が散見されて、作者のような擬古典派は、やっぱりカンペキを目指してやっていただきたいと、そのへんが気になりました。妄言多謝。
踏青の土踏み影を踏みにけり
早春の野原を4、5人で行く。ちょっとした散歩気分だ。遠くに「コナカ」の看板。ポケットに岩波文庫「阿部一族」。気になっているキョウコは無口。ヨシオがキョウコに話しかける。キョウコのはにかみ笑い。なんて言ってるんだ?トモコの笑い声が邪魔でよく聞こえない。ささっと近づく。つかまえた。キョウコの影。キョウコのかけら。
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