Radar 杉原祐之
去年今年なくレーダーの回るかな
駅の端の初東雲を仰ぎける
青深う青深うして初御空
輪飾の十戸ほどなり棚田守る
まちまちの消防車両出初式
雪塊を伝ひて上る雪卸
と言ふ間に吹雪なる陸奥の山
レーダーの杮落しに雪晴るる
三人で人事の話河豚を食ぶ
ビニールの青の覗ける雪間かな
革靴が薄氷を踏み潰しゆく
濡れてをる岩を伝ひて磯遊
菜の花の不思議なほどの黄色かな
朝寝から覚めてマンゴー剥くをのこ
伸び切つて休んでゐたる蚕かな
引越のダンボール敷き花の宴
冷たさを感ずるまでの朝桜
空堀の蒲公英の野となりにけり
銅山は廃れ薇干されある
風待ちの湊の丘の小判草
飛魚干すペットボトルを鳥除けに
モノレール梅雨の運河を潜りゆく
謂れなく嫌はれゐたる梅雨鯰
滑走路の出水の直に乾きたる
旧館の裏の森よりかつこ鳥
三世代同居の声の網戸かな
葉を揺らすやうに蛍の発ちにけり
雷雲と夕焼雲と混じり合ふ
水無月のマリンブルーの宵の空
流燈の試しのひとつ浮かべられ
レーダーの整備の続く良夜かな
凡そ小さき虚子の句碑あり秋蚊来る
島人のゼウスに詣で稲を刈る
面白きほどに臆病稲雀
台風の名残の黒き雲ひとつ
宅地化の最後の稲を架けにけり
蔓の実の絡むフェンスに秋日濃し
訓読みの駅の続ける秋の暮
鍛冶の煤浴びたる蜜柑撒きにけり
新駅の裏側にして冬ざるる
携帯の画面を濡らす片時雨
手に取ればすぐに壊るる槻落葉
パドックのカメラ綿虫よぎりたる
民宿の狭き玄関花アロエ
エレベーターホール手袋落ちてゐし
人と犬犬と人ゐて冬の園
どす黒き水面に蓮の枯れにけり
枯蓮や片つ端から水漬きたる
橅落葉踏み山のこと水のこと
年の夜の旅の準備に忙しなく
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2010-10-31
テキスト版 2010落選展 杉原祐之 Radar
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5 comments:
落選展の醍醐味の一つは、落選させた編集部をこき下ろしたり、落選理由を考えたりする事ですが、この作品も予選突破してもよかった気がします。落選理由は、句の出来不出来が激しかった事でしょう。
季語が動く句や説明的な失敗作も多くありますが、はっとするような佳品もあります。一句目の「去年今年」など、季語への挑戦な感じられて面白いです。
>ほうじちゃさま
コメント有難うございます。
「花鳥諷詠」「客観写生」で詠むと、情景報告になってしまいます。そこをどう突き抜けるか、鍛錬が必要だと思っています。
〈去年今年なくレーダーの回るかな〉お茶目である。季語をやっちゃっている作を、一句目にもってくるというのは、かわいくないお茶目で、いいと思う。
〈まちまちの消防車両出初式〉〈ビニールの青の覗ける雪間かな〉〈引越のダンボール敷き花の宴〉〈流燈の試しのひとつ浮かべられ〉〈民宿の狭き玄関花アロエ〉見せ所がはっきりしている。その分、ちょっと常識的か、とも思ったけれど、いや、これでいいんだよ、という気持ちのほうが強くなってきた。
〈葉を揺らすやうに蛍の発ちにけり〉じっさいは、揺れなかった。でも(思い返せば)揺らすような飛び立ちかただった……認識が時間を遡行しているように書かれていて、おもしろい。
〈人と犬犬と人ゐて冬の園〉犬と人の関係性に二通りある? それともただの並び順? 説明のないところが、いい意味でむずがゆくおもしろい。
朝寝から覚めてマンゴー剥くをのこ
ぐずぐずとしているのが好きだ。このように布団のなかで。休みの日の朝は、布団でぐずぐずするのが極上の楽しみ。俺、太ってるんで本当のところあまり動きたくないのです。いちにち布団のなかで、ごろごろするのにちょうどよい季節になってきた。窓にとなりの家の桜が満開。庇の燕はせわしなく鳴いて、にほんはいい国だなあ。
睫毛が濡れている。昨夜年がいもなく泣いてしまったのだ。ゆうこちゃんが、別れましょうと言った。俺はいやだと言った。俺は別れない別れないと言った。それでもゆうこちゃんは去って行った。それで布団で泣いたのだ。
今日の俺は不機嫌。どこにも行きたくないんだ。俺を誘うな。って、誰も来ないけどね。ははは。
階下で妹の声がする。宅急便が来たらしい。妹のかよの声はでかい。よく聞こえる。かよが何か言いながら、階段を上がって来る。俺は布団を引っ被った。寝てるよ。起こさないでほしい。というポーズで寝ていた。かよが俺のところへ来て、マンゴー食べようよと言う。鹿児島のおじさんが毎年送ってくれるのだ。マンゴーマンゴーとかよがうるさいので、俺は「じゃ、ナイフ持ってきて」とかよに言った。
マンゴーは半分に切って、スプーンで掬って食べるひともあるけれど、俺は皮をりんごのように剥いて、がぶりと丸かじりするのが好きだ。
かよと向かい合って、マンゴーを齧る。
「お兄ちゃん、泣いたの?」
「るせえよ」
「美味しいね、マンゴー」
「食べたら俺、寝るからね」
「寝て忘れるといいよ」
「なに?」
「ゆうこさんのこと」
知ってたのか。
俺は寝た。夢のなかで巨大な真っ赤なマンゴーが宙に浮いていた。それは途轍もなく巨大だった。都庁ほどもあった。俺は梯子をかけてそのマンゴーを登って行った。
>中嶋さま
素晴しいストーリーテラー有難うございます。
私の想定と同じです。びっくりしています。
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