2010-10-31

テキスト版 2010落選展 林 阿愚林 皮膚

皮膚 林 阿愚林

雛の宿目尻鼻筋競い合う
干し若布女の灰汁を抜いており
春キャベツところどころに涙溜め
恋の猫塀の向うに落ちるなよ
清流に勇んで蝶の出初かな
梅咲いて涙をためる阿修羅像
此れという名案無きも青き踏む
誰か死ぬかもしれぬ紅桜かな
絵を踏みて定めし酒の苦さかな
首洗う鬼の家族や花祭
何とまあ陽気な死別養花天
眼球の反転脳は花盛り
花曇り昭和壊して如何するの
山桜待合室は薬師堂
躑躅燃えても帰らない兵士たち
取り戻す皮膚感覚や麦の秋
千枚の代田ありけり地震の村
同じ海同じ焼き皮膚沖縄忌
ほろほろと酔うて桜桃忌の日暈
凌霄のその寂しさに昼の星
夏痩せて惑星一つ消えたとさ
尺蠖や遊びごころがまだ足りぬ
蟹は横人はそれぞれ歩みだす
眼を閉じて仕舞えば汗のよく乾く
妖怪のおどけ疲れて昼寝かな
皮膚が浮くこんなに浮くか原爆忌
スカートの丈は長めに敗戦忌
八月の象が見ている爆心地
八月や解毒作業は静寂に
語り継ぐことの多さや稲の花
頑張りの足りぬ白桃剥いており
秋の蝉誰のためにと鳴くまいぞ
秋天や懺悔するには早すぎる
頬杖を解けば風来る秋桜
栗拾うされど忘れし子守唄
落し水流せしものの重さかな
発火する紫式部白式部
ねずみ志野紅葉日和と定めけり
ドーナツの穴に秋思を通しけり
鶏頭の微熱を借りる旅寝かな
存分に皺を隠すや村歌舞伎
吾亦紅人に肉あり血潮あり
水洟の落しどころは永田町
懐手解いて視線は散り散りに
死神が添寝している年の暮
寒星に目線合して死者の声
煮凝や女の嘘を聞き流す
冬銀河いまさら老いを嘆くとは
熱燗や次の座長はまだ二十歳
裸木となりて妖怪の安眠

3 comments:

ほうじちゃ さんのコメント...

「首洗う」・「眼球の」とか、面白い作品たくさんですね。社会詠は良い路線ですが、表現に推敲の余地があると思います。

さいばら天気 さんのコメント...

水洟の落しどころは永田町

ふつう噛んだり拭いたりするのですが、落としてしまうわけです。水洟を。

永田町の換喩は、あえて読まず、あそこは舗装ばかりですから、舗装の上に水洟が落ちるところを想像すると、あまり詠まれていないユニークな景だと思います。

上田信治 さんのコメント...

標題句二句に見られるような、露悪趣味には、ついて行きかねるところもありますが、〈干し若布女の灰汁を抜いており〉〈清流に勇んで蝶の出初かな〉〈眼を閉じて仕舞えば汗のよく乾く〉ぎらぎらしたところと、飄々と両方あって、おもしろい狙い所と思いました。