2010-12-19

特別作品テキスト 豚百五十句 荒川倉庫

 豚百五十句   二輪通改め荒川倉庫


(北斗賞応募百五十句。週刊俳句既発表八句、所属誌「炎環」既発表二七句、北斗賞のための書き下ろし一一五句による)

巣箱といふ豚の妄想破裂せし
野心なき豚の面めがけて雲雀
亀鳴けり豚が組み敷かれてをれば
その遠足に豚含む団体の意思
豚の法螺接木して収まりがつかぬ
さて豚のポケツトにヒヤシンスかな
労働終へて苺百個が豚の対価
母の日の豚読む斎藤道三伝
麦笛に豚が口つけ初犯なり
後部座席の豚に蓮池見ゆるのみ
虹の根掘り当てたり豚はおろおろし
ここに豚ゐる自由しからば衣更
端居して豚は生き仏にしつぺ
攻守綯ひ交ぜに蠛蠓豚に寄す
水遊び豚の手加減見抜かれぬ
蜘蛛の巣のいやいやを豚払ひのけ
ががんぼの足に見覚えありぬ豚
籐寝椅子豚の点鬼簿伏せてあり
蛇皮を脱ぎ乱丁は豚の責め
水着干し豚の失踪する用意
豚が突込む白日傘の列から悲鳴
悔い多き豚釣堀に犇めきぬ
豚束ねゆく炎天の豚の父
泉行つたり来たりして豚生れたるや
光速の豚の晩年心太
駆落ちして豚まづ頒かちソフトクリーム
豚の頭痛に胃薬効かぬ我鬼忌かな
伸びきつて豚の思へる豆の飯
冷奴然として豚崩さるる
豚が唖蟬空に返してゐる礼讃
バナナむくよしんば豚を識らずとも
豚の悪い噂金魚屋より聞きぬ
豚の神輿に不正あつたのなかつたの
ほうたるの乱舞いよいよ豚暴れ
銀行の熱帯魚煮る豚の夢
冷し中華啜つて豚の年譜汚す
暴力のごと豚囲む夏霞
蟻の道明るきうちに豚が曲ぐ
毛虫焼く豚の理屈はそれとして
仙人掌枯れて豚はどぶどぶ水注ぐ
豚の口「へ」にして受くる滴りや
致死量超えて豚浴びゐたる滝飛沫
滝壺の豚青空を見上ぐるに
西瓜割つて宇宙論ずる豚の難敵
星祭豚の樹形図授かりぬ
持論なき豚に流星群しづか
豚は踊りの輪のなか豚の面つけて
豚が墓洗ひ墓石ぐらつきぬ
懸崖に豚立ち野菊咲くと叫び
今よりは古き顔して豚の秋
小鳥来る豚より私信あるといふ
弔電のほか啄木鳥を豚放ち
月の座の対面豚の仮想敵
豚の陰口聞かぬふりして衣被
きりきりと梨堆く市場の豚
秋茄子のせゐ豚が多過ぎ豚が多過ぎ
豚病んでちよつとそこまで轡虫
秋彼岸豚は一番線に待つ
豚の銃には秋の空気を充填し
殴らるる月夜とて豚月夜ゆく
一兵卒となれぬ豚から月下の死
花野までは蛇行してゆく豚の自転車
大枠は銀河のなかの豚の暮らし
豚携へたる稲妻の見本帳
ウイトゲンシユタイン泣いて豚泣く秋の暮
豚の断つ退路より鳴く蚯蚓かな
うかうかと死ぬ虫ばかり豚集む
豚が蓑虫の糸切る一幕も
たくはへて豚もつまりは黄落期
忌憚なく豚の本音を松手入
矢面に豚は案山子とともに立ち
豚のピンポン球跳ね上がる神の留守
檸檬とは神話豚嚙み絞り捨つ
敗荷ひいて見むとて豚のあとじさり
豚は一息に草紅葉を刈りぬ
煮凝や豚の想像逞しき
豚尖らす鉛筆冬の空へ飛ぶ
聖なる豚きつと現るらむ冬木
勝ち馬に豚乗るのちの寒暮かな
家持を豚読み飽きて小夜時雨
星冴えて豚の湯呑が汚れゐて
煙突もろとも豚が倒れて冬青空
絨毯裏返し豚置く砂時計
神の息白かりければ豚の如し
豚の影豚が迎へにゆく冬日
枯蟷螂と豚の完璧なる間合ひ
木枯らしや豚の瘡蓋捲れあがり
禁欲の豚に寒卵は割れず
ありつたけの毛皮質屋に豚ぶちこみ
毛布十重二十重傍迷惑や豚
豚の力正しく冬の蜂を打つ
闇汁会豚毒盛るを赦されよ
火事の野次馬なる豚のサキソフオン
遠火事や豚は逆上がりの最中
豚やをら語りだす狐火のこと
豚のあづかり知らぬところのぽんかんよ
遁走が豚の本質餅を搗く
多数なれば豚の正義に門松立つ
着ぶくれの豚には狭き羅生門
賀状それぞれ豚に豚の子ゐる景色
善一悪一千誓ふ豚の初湯
獅子舞と豚の動きの異同表
薺粥豚の直らぬ箸づかひ
侘助や豚に子がゐて苦しかり
豚叩く成人の日の頭かな
竹馬降りて豚のわかつたやうな顔
おしくらまんぢゆう友の如きを豚押しぬ
降る雪や豚にもモネの積み藁にも
豚の血の繫がるものに雪兎
豚のかの雪合戦の誤算かな
鉄骨に豚もたれつつ雪の別れ
樺太炙り豚の肴に寝酒かな
豚逃れ来たる寒林にも地主
豚の頭も元気なりけり冬山河
枯野よく歩き健脚とかや豚
謎ともども冬の旅装を豚解きぬ
豚は静かな場所を賜はり冬の雨
枯芝に竿刺し豚のシヤツを干し
湯たんぽせめて胸中に豚収めむと
これよりの豚の結審春隣
風花の豚はいくらも受け止めず
ここらあたりが豚の薄氷渡りし跡
雪崩かな豚の舌打ちうち響き
ハバロフスクから豚を連れ出し春の眠り
明日よりの豚は風船売騙り
霾るや水呑み場より豚の使者
無頼派とふ豚に草餅くれてやり
菜の花の家の間取りを豚盗む
春の家豚辞すときの空腹や
卒業の豚の嚙み殺せし笑ひ
春眠時無呼吸症候群や豚
行けば迷ふ城下の町を豚うらら
豚の網くぐりもんしろ行つたきり
つまるところ豚に向かつて山笑ふ
頭数豚が揃へし花見かな
観桜のもつとも豚の重装備
花筵豚の隣りがガガーリン
豚の不敗神話の中のさくらかな
大変立派な豚ゐて花の下に死す
いきほひ花筏に豚が乗ることに
言外へ豚を追ひやり花吹雪
約束の豚来ぬ春の野の凹み
ぶらんこの豚空一点を蹴り上げ
野遊びの豚の大恋愛時代
葉桜のトンネル豚の待ち惚け
束なれば豚もてあますチユーリツプ
豚を虻回り天動説のこと
涅槃図全面描き換へ豚が中央に
豚の鼎談に囀り交るなり
朧夜へ豚が舌出しありがたう

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