〔週俳12月の俳句を読む〕
いつしか熱い息となって
村上鞆彦
曲りたるところ密なり冬銀河 土肥あき子
「密」という語の強いひびきと、冬の夜の凛とした寒気とが互いに引き立て合うことで、冴え冴えとした冬の銀河が、はっきりと顕ちあがってきた。「密」になっているという曲折部には、星々の力がそこに凝集したような神秘的な光が宿っており、見つめる者の心を静かに打つのだろう。
通る人なくてしづかや干布団 上田信治
表通りから入った住宅街や下町の路地が思い浮かぶ。ちょうど今は人通りが絶えて、辺りは静かである。平凡で何ということのない上五・中七ではあるが、「干布団」という季語の味わいをよく引き出す働きをしている。明るくあたたかな日向が見えてくる。淡々とした欲のなさが嬉しい一句。
白息で来てサツクスをふき鳴らし 高橋博夫
真っ白い息を吐きながらやってきた人が、おもむろにサックスを吹き鳴らしはじめた。さっきまでの白息が、いつしか熱い息となってサックスに吹き込まれ、力のこもった響きを生む。息の様態の変化が鮮やかに描かれている点に注目した。
吹雪く夜の鶏殻の灰汁とめどなし 広渡敬雄
外は吹雪。淋しく不安である。その気持ちをさらに煽るかのように、目の前の大鍋に煮える鶏殻からは、灰汁がとめどなくにじみ出てくる。掬っても掬ってもまだ出てくる。途方に暮れるほかはない……。「鶏殻の灰汁」を詠んだ句は初めて目にしたので、印象に残った。
■土肥あき子 雫 10句 ≫読む
■上田信治 レッド 10句 ≫読む
■高橋博夫 玄冬 10句 ≫読む
■広渡敬雄 山に雪 10句 ≫読む
■荒川倉庫 豚百五十句 ≫読む
■十月知人 聖家族 ≫読む
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