2011-02-20

「関西俳句なう」始動 久留島元

「関西俳句なう」始動

久留島元



「関西俳句なう」は、二〇一一年一月一日に発足した、「船団の会」所属の若手会員6人が共同で運営するホームページである。

活動は一年間の限定つき。最終的にはここで執筆したものを加筆訂正し、新企画も加えてまとめる予定だ。まだまだ試行錯誤が続いているがそれも楽しんで1ヶ月が過ぎた。

今後、特集記事などの企画も予定しているが、核となるページは、「今日の一句」「俳句な呟き」「作品五句」の3つ。



「今日の一句」では曜日ごとに担当者とテーマを決め、毎日更新で俳句を紹介している。

6人のテーマと担当はそれぞれ以下のとおり。

 月曜日=「食的一句」(担当:藤田亜未、1985年生まれ)

 火曜日=「漫画的一句」(担当:久留島元、1985年生まれ)

 水曜日=「家族的一句」(担当:工藤惠、1974年生まれ)

 木曜日=「男的一句」(担当:徳本和俊、1985年生まれ)

 金曜日=「恋的一句」(担当:朝倉晴美、1969年生まれ)

 土曜日=「笑的一句」(担当:塩見恵介 1971年生まれ)



「俳句な呟き」は日曜更新。

メンバーがそれぞれ交代で、いま取り組んでいる俳句の楽しみ方や、俳句に対する疑問などをエッセー形式で発表する。

2月6日時点でメンバー全員の「俳句な呟き」が公開されたが、一句紹介同様に六人六様、まったく違う切り口から書いている。実はメンバー同士ですら誰がどんなアプローチを仕掛けるかまったく知らず、毎週公開を楽しみにしている状態だ。

たとえば工藤恵は思わずニヤリとさせられる俳文を提供してくれている。工藤は俳諧的な面白さをもつ散文を書くことを目指す超結社の勉強会「俳文の会」の有力メンバーのひとりでもあるのだ。

また久留島は1月9日の「俳句な呟き」で、現代の若手作家には東西を問わず「漫画的」なキッチュさがに見られるのではないか、と問題提起している。



「俳句五句」は1月30日からスタートした。日曜ごとにメンバー一人が実験的な近作を発表している。



「関西俳句なう」の特徴は、ふたつある。

ひとつは、関西、ないし西日本にゆかりのふかい作家をとりあげること。

これはもちろんメンバーが関西を拠点に活動しているということが大きいが、現「俳壇」が注目する若手が東京に集中しすぎている、という不満があったためでもある。

端的にいえば『新撰21』。アンソロジーとしての評価は世評どおりであったが、実は取りあげられた作家の多くが東京を拠点にする学生句会ゆかりの作家で占められている。

『新撰21』出版記念竟宴シンポジウムにおいても松本てふこ氏(北大路翼小論執筆者)が、「ほとんど東京で会える顔ぶれ」と発言していたと記憶する。

これにはもちろん東京に主要メディアが集中しているという単純な理由があるだろう。

また、関西にはながく、有力な学生句会が活動していないという事情も手伝っている。

メディアが東京俳人を中心にとりあげているというなら、ぶつぶつ文句言っているだけでなく、メディアに頼らないで自分たちで関西の俳人、一生懸命掘り起こそう。メディアの情報が偏っている、ということが仮に正しいのなら、逆に今こそチャンスで、関西に独自の俳句文化を創ろう。それが、俳句文化自体を多様で豊かにするのではないか。

上記のような目標を掲げたのは、発起人の塩見恵介。そこで若いメンバーが集まって「関西俳句なう」は始まっている。

だからこのホームページではあえて、関西で俳句を続ける若手を探し、スポットをあてることにした。正直、情報収集など苦労は多いが、そういった地道な作業も含め、何か別の景色が見えてくることを期待している。



もうひとつの特徴は、6人のメンバーの俳句への思いが6通りであること。

メンバーは、明確なゴールを統一しているのではなく、個々が今直面している問題意識を、まっすぐに取り上げて発信している。

しかし、一句からの多様な広がりを認めるところに、6人の共通点はある。

メンバーのひとり、朝倉晴美は一回目の「俳句な呟き」で、山田佳乃氏の主宰する円虹句会を「パワースポットアカシア!」と題してとりあげている。




山田佳乃さん。関西でいま一番あついアラフォー! 昨年二月、私の大好きな山田弘子先生が急逝された。 ホトトギスでご活躍ののち、円虹を主宰され、神戸市に住まわれたステキなおばさま、弘子先生。佳乃さんは、実の娘である。……そんな彼女が率いている円虹。そこの、アラフォー女子たちの句会が私は大好きだ。メンバーたちもまた、皆チャーミングなのだ。多種多様な職歴、家庭環境であり、ロマンチストもいれば、ペシミストもいる。だけど、それぞれの力があいまって、不思議なパワーを発している句会。それが、円虹アカシア句会。



「アラフォー女子たち」が心底俳句を楽しんでいる熱気が伝わってくる。

学生として、社会人として。当たり前だが6人にはそれぞれ別の生活があり、それぞれの立場で俳句を考え、俳句に取り組んでいる。

男子校出身で大学では男声合唱を経験し、現在は生命保険の営業マンとして奔走する徳本和俊の担当は「男的一句」。彼によれば、女性の句からも「男性的」一面を取り出すことができるようだ。




野を焼いてきし男等のライスカレー     高岸 容子

掲句はそんな危険な行事をこなしてきた男たちが、皿いっぱいに盛られたライスカレーを頬張っている姿をイメージさせてくれる。……作者は女性であるが、野焼きとライスカレーの組み合わせが男らしさを感じさせてくれた。非常にライスカレーが食べたくなる一句である。

「男的一句」1月26日


高岸は作句の際に、男性性を意識したわけではないだろう。俳句として「野焼き」とともに表現されたとき、読者にとって「男性」的な一面が見えた、ということである。

思いがけないところで思いがけない表現から「男性性」を感じたとき、俳句の読みは確かに広がっていく。



また、藤田亜未は栄養士という立場から「食的一句」や「俳句な呟き」を発信している。俳句鑑賞と調和を図りながら、毎回専門職ならではの役立つ知識が散りばめ、ユニークな文章形式を展開している。是非ご賞味いただきたい。



「関西俳句なう」が提供するのは、メンバーそれぞれの個性に拠った、6通りの俳句の楽しみ方の例示、とも言えるかもしれない。

しかしそのなかには、必ずいまの「俳句」を刺激し、更新を迫るような可能性が潜んでいると思う。

「関西俳句なう」はまだ動き出したばかり。大勢の目にふれながら、ご助言ご叱正を乞うばかりである。

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