林田紀音夫全句集拾読 155
野口 裕
夢に出て経惟子のかたつむり
巡礼の水きらきらとかたつむり
昭和五十年、未発表句。経惟子は、経帷子の誤記だろう。同年のその後に、「風に聞く遍路の鈴のかたつむり」、「風船のあそぶ明るさかたつむり」、「かたつむり形が失せて午後はじまる」とあり、昭和五十一年「花曜」で、「背景に草木傷つくかたつむり」となっている。
突然かたつむりに興味をかき立てられ、集中的に作ったおもむきだが、最初の二句の新鮮さが徐々に消えていく感は否めない。かたつむりの響きが、一句目では象徴性、二句目では質感をそなえて際だっている。しかし、紀音夫の句風では、発表句のようにならざるを得ないのだろう。晩年の有季定型に向かう途上でのためらい、とも見えなくはない。
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オカリナの果て紺青の空傾く
麦笛に鷺棲む草木呼び戻す
麦笛にさざなみの傷はるかな池
麦笛の青に雲ゆき水流れ
麦笛のその青空を画布に塗る
昭和五十年、未発表句。オカリナから麦笛に道具を変更しながら、空に響く音楽を連想しての句作。ざっと見たところ、この時期だけの試みのようだ。オカリナにしろ、麦笛にしろ、紀音夫の好みそうな題材だが、あまりに爽やかすぎるところが返って取り扱いにくかったのだろうか。
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2011-03-06
林田紀音夫全句集拾読155 野口裕
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