〔超新撰21を読む〕
破調という凧糸
田島健一の一句……野口裕
白鳥定食いつまでも聲かがやくよ 田島健一
定食屋のテレビで見かけた白鳥のドキュメンタリー。その鳴き声がいつまでも耳について離れない。
あるいは、身を切られるような寒さの中、湖の白鳥は鳴きやまない。いつまでもその声を聞いていたいが、腹も減ってきたので、湖近くの食堂に駆け込むとなんだか白鳥の定食を食べているような気分になる。
実見と想像との混淆が思わぬ異界を現出せしめる。現出した異界ゆえに、白鳥の鳴き声はさらに増幅される。読者も作者にならって恍惚としてくる。
五七五からずれる破調句が多いが、苦悩や煩悶へは向かわない。五七五の定律はずっしりと重く地に足をつけている。それを作者は体感し、定律を信頼している。そこで破調という凧糸を安心してどこまでも繰り出そうとする。凧の小旅行は、常に異界へのあこがれをひめている。
風船のうちがわに江戸どしゃぶりの
古川柳をスパイスとしてふりかけたかのようなこの句の、過去へのあこがれもまた明白だろう。仮に苦悩があるとしても、それは前向きであり、あこがれそのものである。
死も選べるだがトランプを切る裸
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2011-03-06
〔超新撰21を読む〕 田島健一の一句 野口裕
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