2011-08-07

林田紀音夫全句集拾読176 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
176



野口 裕



花札に黒賑やかな雨の牢

昭和五十一年、未発表句。珍しい句。黒は花札の裏地だろう。所在なげな花札のやりとりのようだが、「賑やか」という言い方がゲームに参加しない傍観者の視線を思わせる。


皿を拭き包丁を拭く乳房の辺

昭和五十一年、未発表句。物騒な刃物が出てくるのだが、危険な匂いは全くない。乳房に対する信頼感。


マヌカンのひとつ手を出す並木の雨

昭和五十一年、未発表句。マヌカンを描写する措辞が、そのまま作者の視線を感じさせる。「手を出し」ならば、視線はその後雨の都会をさまようことになる。だが、「手を出す」となっているので、視線はそのままマヌカンの手に留まる。雨を気にする風でもなく、作者の視線はいくつかあるマヌカンのひとつに注がれる。

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