林田紀音夫全句集拾読 183
野口 裕
傾いて耳なし地蔵風を呼ぶ
昭和五十一年、未発表句。ごく自然と「耳なし芳一」を連想させる。風が届けるものは、不運の盲目僧の物語か、彼の語る平家物語か。
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骨の木に刺されて劫の濃い夜空
昭和五十一年、未発表句。「劫」は「業」の意味をも含んで使っていると考えられる。骨の木が枯木というよりも、むしろ枯死した樹木を連想させる。死後の風景。阪神大震災に遭遇して詠んだ、「鉄筋の棘忽然と激震地」を思わせるところもある。
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骨の手を組むまなうらに火は消えず
昭和五十一年、未発表句。骨の手を組んで、作者の自画像ができあがる。「火」を、生の象徴と捉えてももちろんかまわないが、たとえば「戦火」と見ることも可能だろう。まなうらに湧き上がった追憶は苦い
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ステンドグラス日は遥かより遙かへ去る
昭和五十二年、未発表句。ステンドグラスに、悠久の時の流れを託した句。光を受けて豊かな色を誇る時刻から、暮色に包まれ失いかけた色に至るまで、ステンドグラスを見つめ続けたかのような印象を与える。
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2011-09-25
林田紀音夫全句集拾読183 野口裕
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