常日 杉原祐之
一昨日の新聞を読む花の人
夫として父として見る桜かな
発泡酒ばかりを飲みて神輿舁
坑道の行き止まりなり滴れる
落書の傷も伸びゆく今年竹
青色の勝負ネクタイ更衣
銭湯の暖簾動かず日の盛り
炎天に提げて行かばや提案書
炎昼やぬらりと黒き鯉現れて
大夕焼仕事の成果上らねど
桃色の跳ねてしもつけ咲き盛る
身籠れる妻扇風機では足らぬ
背泳の視界の隅の夕立雲
潮浴を上る一声腹減つた
百円のバス待つや蚊に喰はれつつ
葛の花をりかさなりてさきにけり
霧の出て北方領土羅臼岳
じりじりと運河を遡る煙霧かな
唇の慣れてきたりし瓢の笛
遥遥と来たる無月を仰ぎけり
タクシーの抜道に虫集くかな
漆黒の湯島聖堂文化の日
新居とは言へど思はぬ目貼して
休日や何とはなしに蜜柑剥き
車検より戻つて来たる雪上車
行先板真白き御用納かな
鉄塔の増えてゐたりし山眠る
一年の畑の屑の焚火かな
初めての家長としての年の夜
三日はやジムの自転車混みにけり
共産党支部のシャッター松飾
出さなければならぬ見積松明くる
風強き成人の日となりにけり
伊勢丹の袋ののぞくどんどかな
枯園のあちらこちらの修理中
殊の外日向少なき枯野かな
ジャンボ機の吹雪の中を現れにけり
渋滞の激しき坂に小雪舞ふ
除雪してドクターヘリを待ちにけり
若菜摘かつて隠し田ありしとや
病室の免れざりし隙間風
接続の悪き吹雪のホームかな
丸の内静もり返り雪の夜
飛行機のモックアップに下萌ゆる
義仲忌人を裏切り裏切られ
菜の花に沖に向きたる風見鶏
入院の五年の果の涅槃西風
市役所の通用門の花の冷
開きゐる暗渠の口へ花吹雪
丸の内村に働く虚子忌かな
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2011-10-30
2011落選展テキスト 杉原祐之 常日
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5 comments:
「坑道の行き止まりなり滴れる」「唇の慣れてきたりし瓢の笛」「鉄塔の増えてゐたりし山眠る」「市役所の通用門の花の冷」など、事実をしっかり把握した句が、なかなかのものと思いました。「坑道」の句のかっちりした表現がとりわけ好きです。
サラリーマン俳句みたいな傾向のものは、いまひとつ低いところで楽しみすぎているのでは。「一昨日の新聞」「勝負ネクタイ」「見積」など、あまりにもまっとうに仕事人でありすぎるように思う。
四ツ谷龍さま
コメントいただき有難うございます。
季題を詠んでいる積りですが、身の回りの仕事の句はどうしても別の軽い興味を詠んでしまっているからだと思います。
ハイクマ記事に追加の印象句です
「背泳の視界の隅の夕立雲」
「百円のバス待つや蚊に喰はれつつ」
「じりじりと運河を遡る煙霧かな」
「伊勢丹の袋ののぞくどんどかな」
「市役所の通用門の花の冷」
「開きゐる暗渠の口へ花吹雪」
↑
時間が逆転しているような奇妙な味わいです。
「唇の慣れてきたりし瓢の笛」
瓢の笛、吹き鳴らすにはちょっとコツがいるようです。しかし、唇の位置や吹き込む息などを調整するうちに、きれいに音が出るようです。ピーと高い音を吹き鳴らす、そんな状態になった唇を詠われたようです。「慣れてきたりし」という表現を面白く思いました。
「ジャンボ機の吹雪の中を現れにけり」
映画の一シーンを見るような劇的な瞬間を詠われたようです。その瞬間が、離陸前とか、風雪の中の着陸場面なのかとか、色々と想像力を刺激されもします。個人的には、着陸シーンで、雪の帳の向こうに飛行灯が見え、やがてジャンボ機本体の姿が中空に現れ、その後無事滑走路に着地などと勝手に空想したりします。
上田信治さま
minoruさま
コメント有難うございます。
平凡な風景を敢て平凡に写生している詠み方ですが、好意的に読んで頂き勇気が出てきます。
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