競泳 今村 豊
かげろへるとき幅跳びの少女発つ
恋猫の鈴をはづしてやりにけり
花守か逢引守か分からなく
遠足にデモ行進の短しよ
鯉幟カーブミラーを打ちにけり
ジャンクションに道が集まるみどりの日
ピザ生地のまはし広げや燕
母の日のルルルばかりの唱歌かな
発馬機をこはがる馬に緑さす
葉桜に二人の女優ののしり合ふ
夏帽子目深交際語らずよ
競泳の水中に聞く友のこゑ
右翼手後逸そこより青野はじまりぬ
登山服母は地べたに座らざる
青鷺きて大きな影を連れてくる
先生と呼び合ふ夫婦田草取る
かはほりを捕らへたる人いまだ知らず
自転車をねらふ打水構へけり
緑蔭や少年ジャンプ枕にし
行水の庭に夕刊届きけり
夏掛の上の4の字固めかな
盆僧の勝手にしやべる父のこと
サングラスかち合ふキスやチャオと言ひて
豹灼くる口に引き摺るインパラも
泥鰌屋に集まるサンバ衣裳の子
花火が見えるマンションの説明会
耳飾ちやらちやら鳴りぬ夏料理
玄関に女靴なき涼しさよ
居ながらに留守番電話昼の月
新涼と残暑ふたつの祝辞案
プラネタリウム出て水を飲む豊の秋
葡萄分かつタッパーとタッパーの蓋
水澄めり魚が水からあがるとき
ジャイアント馬場の背丈の菊人形
折れバット流星打ち損じたるかな
一斗缶の焚火大学のうちそと
冬帽として目出し帽好みけり
三島忌と言ひて憂国忌と言はず
万歳はセーターを脱ぐときにこそ
ジュラルミンケース凍てたり臓器籠めしより
留学生寮サザエさん見るクリスマス
罰として鯨の肉を食へと言ふ
卓球台たたみて羽子を突きにけり
監視カメラにピースサインや成人祭
ラグビーを観ながら非常階段を
雪掻のはじめは鑿を打つやうに
道訊けば飴くるる人ちやんちやんこ
魚臭してストーブ列車にぎはへる
翼欲しといふ卒業歌ビル風に
春川のもつとも狭きところ跳べ
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2011-10-30
2011落選展テキスト 今村 豊 競泳
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1 comments:
「三島忌と言ひて憂国忌と言はず」
「万歳はセーターを脱ぐときにこそ」
そこに政治意識など感じるわけではないが、ちょっと屈折した
意識のありようを感じて面白いと思いました。
「憂国」といい「万歳」といい、それらを無意味化する視点に
俳の精神のようなものを感じもしました。
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