ごきげんよう 藤山直樹
枯野から呼ぶ幼なごゑ己がこゑ
龍の玉素数しづかに無限なり
寒鯉に纏はる水の粘りかな
病む人の爪透きとほるしらが葱
鳥はみな羽根はえてゐて山眠る
人参のジユース体内明るうす
紙ほどの薄さのこゑの冬鴎
寒林を一塊として朝日かな
奥書にあのひとがゐる寒椿
寒暁の寝床ぼそぼそ宇宙論
淡雪の消ゆる時間の消えゆけり
騒然と鶏いちめんの落椿
凧あげてをりまつりごと思ひをり
ギアラ焼けセンマイも焼け受難節
霾や閃光走る造船所
ハモニカの音のはじめの朧かな
画用紙に一滴の血やつばくらめ
猫死んで桜月極駐車場
彼岸過金魚どうやら太りけり
花の色染みたる脳の朝寝かな
ゆふざくら逢うてたちまち眠るなり
桜蘂降る白壁のほの濡れて
旧約聖書血まみれ春の尽きにけり
幾万の飯粒食うて端午なり
薔薇剪つて空気いきなり濃くなりぬ
えんえんと影踏む遊び桜桃忌
錦鯉絵巻解くごと浮かびけり
かはほりの空むらさきに落ち来るよ
牛のこゑ真似をするなり瓜の花
なめくぢり月光にごくわづか溶け
オルガンの音ずれてゐる暑さかな
蝉の穴鬱の極みも過ぎにけり
焼飯の卵おだやか海の家
崖上の空ふかぶかとやんまかな
洋上を西瓜ぷかぷかごきげんよう
踊子の腿のゆたかにゐなくなる
貰ひ猫して秋霖を帰りけり
おのが脈ふととつてをり芒原
牛乳の薄皮蒼し夜半の秋
警棒をじつと見る犬秋の風
じゆずだまや水底を衝く光あり
星しづか鰯はあまき脂もつ
口笛を音たてず吹く秋の暮
からすうり夢の憩へる脳の溝
蜂蜜の瓶の昏みや暮の秋
残菊や頭の中を風ひゆうと抜け
金屏風無闇に笑ふ漢なり
屑籠に双手入れたり風邪心地
遠くまで行く切符なり冬の雲
漢字犇めく保険約款小晦日
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2011-10-30
2011落選展テキスト 藤山直樹 ごきげんよう
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6 comments:
「病む人の爪透きとほるしらが葱」
病気の感覚と、しらが葱の白さの不健康さの配合がいいと思いました。
「かはほりの空むらさきに落ち来るよ」夕暮れの空を、蝙蝠に関連付けて「むらさきに」と言い、さらに「落ち来るよ」とまで言い切ったところに迫力を感じます。
全体に表現されたいことはよくわかるのですが、もう少し表現のヴァラエティがほしい感じがします。(失礼ながら)
「騒然と鶏いちめんの落椿」「崖上の空ふかぶかとやんまかな」など、「いちめんの」「ふかぶかと」はおっしゃりたいことはなるほどと思うのですが、違う言いかたがあるように見えてしまうのです。
四ッ谷龍様、
コメントありがとうございました。
お取り上げになっていただいた2句は、句会でいままでいいと言われたことがあまりなかったもので、私が考えていることを形にしてくださったようで、うれしく思いました。
ヴァラエティの問題は日々実感していることです。まだそれほど作句をして日がたっていないということがあるからか、おそらくこの向こうに、より適切な措辞がある、というところで止まってしまいがちです。
このバラエティ問題はすごく本質的なことで、、長い道のりが必要なのだろうと感じます。何か手がかりになるようなことがあるといいとは思いますが。
結社の外の方に、句についてコメントをいただくのははじめてで、落選展に出してよかったと思います。
元、同じ結社ではありますが...w
あ、そうでした。大先輩でいらっしゃるわけで。。よろしくお願いいたします。
四ッ谷さんのコメントを見ると、「かはほり」が落ちると読めてしまうことを、がまんして「むらさきの空」が落ちてくると読むのが正解のように思えてきました。他印象句。
「おのが脈ふととつてをり芒原」
「警棒をじつと見る犬秋の風」
「じゆずだまや水底を衝く光あり」
「星しづか鰯はあまき脂もつ」
「口笛を音たてず吹く秋の暮」
上田信治様、
丁寧に読んでくださり、ありがとうございます。
印象句として挙げてくださった句、どれもわりとすっとできてしまった句ばかりです。いろいろ考えさせられます。
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