いちにち 生駒大祐
外は雪平均台に木の肌
煮凝やいのちのまろく描かれし
掌の熱の豆腐にうつる寒の雨
壁籠めに遊び場ありぬ雪しまき
木像のまとふ黄金や冴え返る
牛は春乳房をつたふ残り乳
蝦夷とほく麦踏をくりかへしけり
雨のとびかひてあかるき春の昼
やはらかな箱に収むる干鰈
高みよりあれて蕨をつまむゆび
菜種梅雨浴室てふはかげのなき
屹立の雉子の空の高さかな
いちにちを日にあたたまる春の月
源流のおほきな魚や辛夷散る
しづみゐるや干潟にくらす鳥の脚
里桜まなぶたの内みづびたし
涸井戸に水道隣る花の下
歩みけり春風は花あやめつつ
てらてらと散り敷く花の水面かな
鬼の棲むてふ村にして花菜村
考へたすゑに巣箱へ入りけり
鍋振れば肘のはたらく春の暮
晩春の野の扉には蝶番
椅子に待つ蚕豆の茹でおはりかな
切先はさらに古りゆきあやめぐさ
夏衣の子が飛縄を連れ歩く
姿より名のさびしけれ羽抜鳥
照る旗の裏の真暗に緑さす
枇杷割れば種子あやまたず濡れてをり
ビニルシート四辺に靴や草いきれ
瓜食ひし子供が揺れてゐたりけり
昼寝覚髪長くして畳の香
明後日のこと貼られある冷蔵庫
俎板の木目の朱き涼しさよ
消灯に万色失せぬ薄原
里芋の旬の離れてゆきしかな
涙しだいに口へ流れて秋をはる
冬立つや素どほりの街うるはしく
ぢつと見し花柊をはふりだす
にはとりの首見えてゐる障子かな
ふくろふのほうと茶室の荒れてをり
蛇遣ひ蛇の玩具を売れる冬
牡蠣飯を大人が食べてゐる座敷
絵襖の中よりしたる人の声
人声は去り粕汁のゆたかなる
帰宅とは聖樹の尖に帽子置く
襟巻や姓の中なる山や川
月と日の間穏やかや落葉焚
冬雲を見しうたごゑが出できたる
蜜の香の日輪落つる冬至梅
3 comments:
「やはらかな箱に収むる干鰈」「瓜食ひし子供が揺れてゐたりけり」などが生駒さんらしいゆらぐ感性が出ていて、いいと思いました。
一物仕立ての句は、それなりに読ませる形になっていますが、配合の句は季語の選び方に難があるのではないでしょうか。
「いちにちを日にあたたまる春の月」、日が出てきて、さらに月が出てくるというのは、意図的でしょうがいかがなものか。
「里桜まなぶたの内みづびたし」では、「まなぶたの内みづびたし」という抽象を支えるには「里桜」では弱すぎる感じです。
すみません。つまらない質問だったので削除しました。
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