七月は空 田島風亜
日の差して波あらはるる春の湖
鉢を置くごと幼子をぶらんこに
恋も夢もなき満開の躑躅なる
大いなる鳥に呑まるる朝寝かな
夏落葉カードゲームをするやうに
時計草楽しい時間だけ刻む
遅れました釣鐘草が鳴りまして
亀の子や掻きたる水に揺すられて
青嵐何かに怒りゐる迷子
鮎を焼く月若く火も若くして
枇杷の種箴言のごと残りけり
梅雨は壁もたれかかれば柔らかき
百日草百日先のことなんて
七月は空空は意志意志は花
ブロッコリー北海道より転がり来
地下鉄に窓あることを涼しとす
愛されてゐるさ空蝉そこかしこ
のど飴をもらふ撫子見てをれば
満月の画像飛び交ふ満月下
蚯蚓鳴く軍神てふ嫌な神
澄む水の中州の縁に触れゆけり
爽籟として飛び来しが餌欲しげ
言葉はも記号なりけり菊大輪
空に金星テーブルに栗光りをり
秋風の葉擦れの丘が町の芯
初鴨と公園で会ひお茶を飲む
木守柿明るき水の音のして
破芭蕉風を呼びゐる風の中
海を北に山を南に秋惜しむ
小春日や衣擦れの音するやうな
乗り合はす力士と七五三の子と
降る落葉発止と芝に立つもあり
冬耕の人より満ちてゆく景色
焦心に触れたる葱の甘さかな
猫化して家鴨となるや冬日向
霜晴の地より空より高笑ひ
悔恨や軽やかに浮く百合鴎
寒き夜の更くるや井桁組むごとく
師走から零れて父と鰻屋に
問ひゐるやはた告げゐるや福寿草
雪が来て雪雲が来てすべて雪
寒鯉と悲嘆と宇宙似てゐぬか
草萌えてむずむずむずと地底まで
春雪の冷え駅弁の白飯に
泣くにまだ早き河原や二月尽
ぴん札のごとき曇天鳥帰る
水温む飛び立つ鳥に搏たれつつ
パンジーの吹かれてやぶれかぶれなる
しほしほとビニール傘に春の雨
鳥の巣や去年の今頃は何を
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2011-10-30
2011落選展テキスト 田島風亜 七月は空
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1 comments:
「冬耕の人より満ちてゆく景色」
ズームアウトという撮影法があるけれど、そのような
印象をもたらす一句のようです。遠くから冬耕の人を
クローズアップした状態で撮し、その後カメラをずっと
引いていく。冬耕の人が置かれた周辺の状況が次第に画面に
豊かに広がって行く中で、人物はその風景の中に収束していく
そんな情景を思い浮かべました。
「猫化して家鴨となるや冬日向」
「猫」と「家鴨」とくると、不謹慎にもある生命保険のCMなどを
思い浮かべてしまいました。それにしても、冬の柔らかい日差しの
中で、猫が家鴨に変わるとはどういうことなのだろうか、とちょっと
思いました。
しかし、雀が蛤に変わるのが俳句の世界ですから、それもありかな、
などとあっさりとその思いを引っ込めて、そんな不思議な世界に
遊ぼうか、などと思いました。
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