林田紀音夫全句集拾読 191
野口 裕
夏終る水輪ひろげて鯉の口
昭和五十二年、未発表句。作者名を隠せば紀音夫の句とは思えないが、作者名がわかると上五に秘めた喪失感を感受できる。鯉の口から広がる波紋が時間の流れを思わせる。
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膝抱いてテトラポットに雲送る
昭和五十二年、未発表句。風景を主体的に捉える語句が、「雲送る」。こう把握したとて何かが変わるわけでもないが、外界をぼんやり眺めている状況を眺めている自身をも含めて覚醒するきっかけにはなる。
ただ、こういう句が句会に出ると、その存在意義は認めながらも「これは詩ですね」とか、「一行詩」というようなある種のテクニカルタームで敬して遠ざけられる傾きがある。それ以上に議論の深まらない点がもどかしい。
墓へ水かけその青空を負い戻る
昭和五十二年、未発表句。墓参後の自身の心情や追憶を外界に託す。託される外界の対象が遠くにあればあるほど、それは深く広いことが想像される。紀音夫の句に余人の及ばぬほどに星の頻出する因の一端ではあるが、この場合それが青空になる。その後に来る夕闇はいっそう濃くなっているだろう。
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2011-11-27
林田紀音夫全句集拾読191 野口裕
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