2012落選展
17 藤尾ゆげ 結界
春休四万ルピーの神を買ふ
啓蟄や乳吸ふ丸き後頭部
佛壇を開くと連凧のけはひ
春の虎檻ごと消えてから臭ふ
受験日の吊り目の聖ジョセフ像
サーカスも春野も知らず熊のゐる
空中の麒麟の舌や春の闇
鰆の字大きく書きてバスガイド
朧夜に引き抜く不在連絡票
我囲み蛙の解剖始まるよ
失敗をつばめのやうに忘れたい
蝸牛楊さんは中華墓地の中
青田風殴りボクサーまた走る
鯉幟岡本太郎膨らみぬ
雹過ぎてパン粉の中に右手かな
黒揚羽摩耗してゆく輪転機
オペ室へゼリィの中にゐる金魚
藻の花や沈めば我は誰の餌
梅雨の息角持つ蛹加はりぬ
梅雨晴れやペルリの鼻の高きこと
油蟬工場ただ今作動せり
引き返せ今引き返せと蟬の声
日蝕の朝のたましひ胡瓜揉む
蜘蛛の糸のぼりていつもここに来る
夏の底剥製は眼を開けてをり
かき氷赤き舌出す佛様
螳螂がゐる梵鐘を待つごとく
鱗雲百の手桶の干されゐる
てつぺんの鬼柚子あした孵化するや
おみがきや輪灯に月映るまで
旅終へて松ぼつくりの軽きこと
ローマ字のどれにも冬の鳩のゐて
冬青空ありシリカゲル再生す
助産師の如き手際で牡蠣を出す
梟のまま瞬きす占い師
首長き天気予報士雪を貼る
柔らかきところの垢よ雪の夜
雪つかむバニーガールの尻尾ほど
咳けば狼の来る鉄扉かな
フレームの湿気すべてが父である
空の青濃くせり鶴を描くため
みぞれ雪バックパッカー爪を切る
塊は鯨となりて喪の明くる
白足袋の小鉤隠るる武器のごと
正月を殴つて逃げてしまひたき
春の山ぐるりとリップクリーム塗る
最初は空そして白たんぽぽ探す
涅槃会やひなたをのせて猫帰る
鬼の顔受信しお多福送信す
結界を跨ぐどちらも春の塵
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2012-11-04
2012落選展 17 藤尾ゆげ 結界 テキスト版
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鬼の顔受信しお多福送信す 藤尾ゆげ
雪つかむバニーガールの尻尾ほど 藤尾ゆげ
旅終へて松ぼつくりの軽きこと 藤尾ゆげ
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