第270号~第279号より
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担当した回の中で一番印象に残るのはやはり第273号の「特集 追悼・今井杏太郎」であろう。僕自身は正直に言って今井杏太郎のことをそれまでほとんど知らなかった。エッセイ4人、作家論1人、各句集論5人の総勢10人で多角的に取り上げられると普通は全体像が浮かび上がってくるものだと思うが、逆に全体像がぼやけて遠くなっていくような、つかみどころがなくなっていくような印象を受ける。
それというのも、どこか時を超えようとする意思を、その句群から感じるからであろうか。否、それは「意思」ではない。意思ならば、むしろそれこそが「つかみどころ」となるだろう。時を超えようとしているのは今井杏太郎の選んできた言葉そのものとかその配列であって、それに素直に身を任せていられる彼の態度こそが、つかみどころがない印象を与える。
雨の降る夜の玉葱畑かな
昼寝よりさめてきのふの家に居り
みづうみの水がうごいてゐて春に
そういう、時を超えようとするのではなく時を超えてしまう作家が、死という事態に直面した、ということ自体が、なんだか物語の中のことのような、気もする。
≫第270号~第279号
2013-01-20
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