林田紀音夫全句集拾読 251
野口 裕
猫歩くさくらの下の仄明かり
頬杖の仏の宙に辛夷咲く
口あけて眠る子の宙さくら揺れ
昭和六十二年、未発表句。かつての紀音夫の句風とは異なるが、いかにものどかで駘蕩たる景が三句連続する。「鉛筆の遺書ならば忘れ易からむ」とまで思い詰めた青春に対する賜物かも知れない。
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まざまざとさくらの終わる夜がくる
昭和六十二年、未発表句。四百二十二頁の二十八句中、十三句の「さくら」、「葉桜」が二句、「花曇」と「余花」が一句ずつと句材が桜に集中する。前項の「さくら」二句は前の頁なので、この時期の関心はほとんど桜に向けられていることになる。無季の句が二句あるが、「一日が長く気重く机拭く」と、「雨空へ風船の黄や赤逃す」で、力ない句とかつての焼き直しになる。また、これだけの量を作りながら、昭和六十二年から六十三年にかけての「海程」、「花曜」の発表句の中に桜の句はない。昭和五十年の第二句集発行以後の句集がないことと思い合わせると、この時期の発表態度はかつての読者に対する義理立てのようにも見える。
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雨粒の走る雨傘竹の葉降り
昭和六十二年、未発表句。そんなに激しい雨ではなさそうだ。ビニール傘か。傘に軟着陸の竹の葉もありそうだ。紀音夫の句風からすると、傘を差している他人が登場人物として欲しいところだが、句だけを読んだ場合にはそうとも言えない。叙景に徹して、内面に立ち入らない。そんな句の傾向が現れつつある。
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2013-02-03
林田紀音夫全句集拾読 251
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林田紀音夫全句集の編者、福田基氏が一月一九日に逝去したとの報を、先ほど受けた。ご冥福をお祈りいたします。
風花や架空歓談せし男
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