2013-04-14
朝の爽波62 小川春休
62
さて、今回は第三句集『骰子』の「昭和五十九年」から。今回鑑賞した句も、引き続き昭和五十九年の夏から初秋の句。年譜上、特にこれという記載はありませんが、句集収録作を見る限り、なかなか充実していた時期という印象。
撒水のいま射干を越えてゐる 『骰子』(以下同)
盛夏の頃すらっとした茎を伸ばし、分かれた枝の先に紅の斑点を散らした橙色の花を開く射干(ひおうぎ)。撒水というからには、撒水車やスプリンクラーを思う。強まり弱まりする撒水が、時折射干の丈を越えて遠くまで飛ぶ。撒水に揺れる射干の姿も見えてくる。
背高に育つかこの子水遊び
普段は子供用の服を着て、いかにも子供らしいいでたちをしている子供たち。水遊びに服を脱ぐと、思ったよりガタイの良い子やひょろっとした子など、その体格がよく分かる。そうした子供たちの体格の差異を見ていると、五年先、十年先の様子がふと想像される。
虫干の井水冷たく花赤く
梅雨の明けた頃、衣類や書物を陰干しして湿気を取り、黴や虫の害を防ぐ虫干し。当然、好天の日を選んで行われるため、井戸水の冷たさも花の赤さも、暑さや日差しの強さとの対比の中で強く意識される。晩夏、酷暑の頃ではあるが、どこか秋遠からじという気分も。
家毀ち竹根積まれし秋の風
家屋の解体の景。和風・洋風と家にも色々あるが、傍らに積まれた竹の根から、木造の日本家屋であろうと想像される。竹の地上部分は伐り出され、掘り起こされた根だけが積まれている。昨日まで風に鋭い葉音を立てていた竹も既に無く、ただただ秋風が吹き過ぎる。
暗幕にぶら下りゐるばつたかな
映写室などで、室内を暗くするために窓や壁に張りめぐらす暗幕。遮光のため、厚みのある黒っぽい布地が用いられる。いかにもばったの爪が引っかかりそうな材質の布地が目に浮かぶ。しかしこんな所でばったとは、『坊っちゃん』のように子供が持ち込んだか。
かう暑くてはと水引草の粒
八月頃、枝の上に数条の細長い花軸を伸ばし、無数の赤い小花をつける水引。立秋以後だが、まだまだ残暑厳しい折の花だ。本来、「かう暑くては」の後に続く言葉があるはずだが、それを言葉にする気力さえ失わせるような、夏からしぶとく続く暑さが思われる。
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