2013-11-03

2013落選展テキスト 8構成 高勢祥子

8 構成 髙勢祥子

春潮の絡まつてゐる朝日かな
ふらここを握る手段々と熱し
玄関に嵩張るロープ春筍
ぎゆうぎゆうの躑躅の中をすれ違ふ
クローバー呑みては舌の置き所
VHSテープに春の水揺らぐ
花種を蒔くや背中のまるくなる
白れんに眉根ほぐれて来りけり
春愁ひスケッチブック新調す
大きな手に釘がじやらじやら葱坊主
体臭のふはと近づく花見かな
文机に肋の触るる花疲れ
猫が噛む髪の一筋月朧
卵黄のつつと動きぬ夏初め
半島に指をすべらす薄暑かな
脳外科が丘の上なり草矢打つ
柏餅よりも冷たき指輪かな
空梅雨やはじめ真白き縫ひぐるみ
鼻腔にも繋がつてをり五月闇
静脈は湖の色栗の花
荒梅雨や互ひを構成する巌
鎖曳くやうに消えたり青蜥蜴
便箋に不安定なる蟬の殻
パペットの肢体横たへ半夏生
青嵐指紋認証ドアに向き
金魚の餌振る体温計咥へつつ
夏風邪の男に渡す会議録
地下鉄を引つ張り出して夏の空
にゆつと蚕豆革命映画見し後に
夏手袋恐竜の絵をめくりゆく
鳩尾と水着の隙の空気かな
風鈴の空洞を見て購へる
ヨットレースの輝く額あれは
サイダーの泡の速さの鼓動かな
横たはる裸婦AとB夕立来る
銭湯を出て水中花売つてをり
ペットショップの壁は賑やか夏の雨
散りたれば百日紅地に翻る
クロールの傾く耳がいくつもある
ビーチパラソル突き刺してより父遠し
母の抱くメロンは骨壷の如し
滝といふ常に滅びる過程かな
夏深し水中に髪混じりあふ
フェルトペンで象の輪郭涼しかり
枝豆を食うてたましひの増ゆる
コピー機に待つや汗ひく途中なり
改札に混じる浴衣の鰭のやう
秋近き帰国前夜のオセロかな
ハンカチに包む貝殻かしやと鳴る
夏帽を置く両膝の少し離れ


1 comments:

上田信治 さんのコメント...

8 構成 髙勢祥子

ぎゆうぎゆうの躑躅の中をすれ違ふ
荒梅雨や互ひを構成する巌

ふわふわガーリーな句よりも、なんかぎちぎちした句に引かれました。

地下鉄を引つ張り出して夏の空
地下鉄は、丸ノ内線などのあの出てくるところでしょうか。それを「引つ張り出」す力をイメージするというのは、やっぱり、ぎちぎちした行為だと思います。