鳥が見た町
茅根 知子
「いわき市の文化財を学び津波被災地を訪問するツアー(企画:プロジェクト傳)」のレポートが、『週刊俳句』で幾度か取り上げられている(※)。この度、ツアーで訪れた被災地域を復元した「あんばさまの町図絵」が発行となった。
あんば様は、利根川流域や福島以北の太平洋岸の漁村で信仰される、厄病や海の安全を守る漁業の守り神である。「あんばさまの町図絵」は、いわき市平の豊間、薄磯、沼ノ内の3地区が瑞々しいイラストで描かれている。
航空写真で見る町は、機上からの眺めに似ている。が、「あんばさまの町図絵」は、見る者を鳥にする。ゆっくり空を飛んでいる自分を想像させる。鳥瞰する家々からは挨拶の声、笑い声、泣き声、たくさんの市井の人の息遣いが聞こえてくるようだ。神社や灯台は写真で見るよりも身近で、穏やかな気持ちになる。
「あんばさまの町図絵」に描かれた家のほとんどが、今はもうない。その事実を考えると、震災前の景観を復元すること、震災の事実を後世に伝えることの意義はとても大きい。いつか鳥が見たであろう穏やかな町並みを、ずっと記憶にとどめておきたい。
今回、「あんばさまの町図絵」製作に尽力したすべての方々に、心より敬意を表します。
(※)
●この地を見よ(関悦史)
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