2014-01-19

朝の爽波100 小川春休



小川春休




100



今回で本稿も百回目と思うと感慨深いです…。さて、今回は第四句集『一筆』に収録された最後の年「昭和六十三年」から。今回鑑賞した句は昭和六十三年の晩春から初夏にかけての時期の句。今回鑑賞した句に〈花御堂女三人縺れつつ〉がありますが、花祭の催される四月八日は虚子忌でもあります。昭和六十三年の四月八日は虚子三十回忌の日、爽波も東山の鹿ケ谷で虚子を偲んでいます。法然院の松尾いはほの墓、その隣のミューラー初子の墓に詣で、その後在世中の虚子にたびたびまみえた思い出の地でもあるミューラー初子邸を訪れています。年譜によれば〈虚子の忌に声を嗄らして鹿ケ谷〉という句を詠んでいるようですが、『一筆』にはこの時の虚子忌の際の句と分かる句は収録されていません。

花御堂女三人縺れつつ  『一筆』(以下同)

釈迦生誕の日、四月八日にその降誕を祝って行われる灌仏会(花祭とも)。境内にいろいろな花で飾った花御堂をしつらえ、水盤に安置された誕生仏に参拝者が甘茶を灌ぐ。春らしい華やぎのある仏事だ。この女三人、甘茶を灌ぐ順番でも譲り合っているのかも知れない。

こけしの目杉菜に雨のしとど降る

春先、土筆が伸びた後に杉菜が生え出る。高いものでは四〇センチ程までになる杉菜が、雨に濡れて一層鮮やかな緑色となっている。掲句で何より印象的なのは上五。屋外に広がる雨の野の景をあの独特の表情で見やる、こけしの質感、存在感が際立っている。

ゴールデンウイークの霊柩車が行くよ

この霊柩車には、遺体を納めた柩が載せられているのであろう。世間が浮き立っている連休の時期に亡くなるとは少し皮肉にも感じるが、句の調子、特に句末の言い回しは明るさを感じさせる。折しも新緑の時期、鮮やかな霊柩車に、目と心を奪われる一瞬。

別居中なる鉄線花咲きにけり

五・六月頃に花を咲かせる鉄線。中心に蕊が密集する、大ぶりな六弁の花が印象的だ。花に対して「咲きにけり」とは当然のようだが、花を開く前の鉄線や去年の鉄線など、別居中の現在と同居していた時期とを対比したことも相俟って、自然な感慨が窺われる。

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