2014-03-09

特集・三年目の3・11 斉藤斎藤「震災関連」作品抄テキスト

 「震災関連」作品抄 斉藤斎藤


「何でもできる」(「短歌」2011/06)
ほんとうにとてもかなしい都市ガスで水を沸かしたあたたかいもの

「証言、わたし」(「短歌研究」2011/07)
これわたしの家内の実家の船なんです わたしの家内の、妻の実家の

三階を流されてゆく足首をつかみそこねてわたしを責める

撮ってたらそこまで来てあっという間で死ぬかと思ってほんとうに死ぬ

「それから四月の終わりにかけて」(「生命の回廊3号)
「ただいまの黙祷をもちまして救助活動は中止、終了ということでございますから、

夢だったらいいのにという引き出しがないか小さいので入らない

「実際のそれ」(「短歌往来」2011/08)
泥水の瓦礫の底にそれらしき目で掻き分けてよく見れば基礎

死体はありません。手をつけないで! 連絡先 : 加藤090‐***

心臓が震えて胸を逃げ出そうとする360度何もない空間の瓦礫にすくむ

泥の上にぐじゅぐじゅの畳を裏返しにならべた道は石段へつづく

「死ぬと町」(「歌壇」2012/04)
人口に応じて町はそれぞれに理想の高さ・広がりを持つ

その際にあるいて逃げる坂をくぐる車は海へカーブをえがく

すべての菜の花がひらく 人は死ぬ 季節はめぐると考えられる

降りはじめの強くなりそうな雨は今しばらくのまま降りつづけている

「ない」(角川「短歌」2013/05)
立ち読みの顔を上げればバス停にすこし離れてそびえ立つ漁船

ここは青空のまん中だったここだった真っ黒焦げのどこ行きのバス

いちめんのない 片付いた工場のない屋根に大群の鳥の黒 ない

「それから絶望感に押しつぶされそうになりながら、いつかやってくる日をひたすら待ちました。」(「短歌研究」2013/07)
 メルトダウンに最も近いパチンコ屋で浜崎あゆみを2千円打つ

廃線をいつか歩いてみたかった こんないつかじゃなかったよ楢葉

パトカーの福島のひとほほえんで「こんなところでどうされました?」

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